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『どん底』のルール〜バイーンからバイーンまでのワンマンショー

『どん底』
作:マキシム・ゴーリキー
2017年11月初演(2021年8月再創作)
アンダースロー
上演時間約80分
音楽 空間現代

この芝居は、基本的に一人が前に出て行って客席に向かって発語する、ワンマンショーのような形式を取っている。しかし、演技をしている最中に「バイーン」(と呼んでいる。「バタン」とも)という大音響が鳴り響くと発語者は台詞の途中であろうがなんだろうが、ショーを中断して戻らなければならない。
この「バイーン」は時間がくると自動的に鳴る。つまり、前の人のバイーン終わりから次の人のバイーン終わりまでは1分42秒、その次は1分15秒といった具合だ。俳優はこの持ち時間の中で台詞を喋らなければならない。完全に時間と台詞を合わせることは難しいので、「ここまでは必ず喋る台詞」とここからはバイーンが来てもいい台詞、つまり「捨て台詞」がある。

なぜこんなことをするのか。

「ここまでは必ず喋る台詞」の終わりに音響の人がボタンでバイーンを鳴らせばいいじゃないか。時間で決めてしまったらリスクしかない気がする。台詞が滞ったら時間が足りなくなるし、逆に、台詞を飛ばしてしまったら時間が余ってしまう。
役者にしたらとてもストレスフルな状況だ。いくら捨て台詞があるとしても。

今までも、時間ではなくてボタンでバイーンを出したらどうかという提案はあった。(実のところ何箇所かはボタンで出している)
しかし、なんとなく「時間でバイーン」に落ち着いている。

なぜか。

それは、大袈裟にいえばこれが地点の演劇のつくり方だからだ。

キッカケがきたらボタンでバイーン……これだと違う気がする。
「時間でバイーン」の何がいいのか。緊張感? 追い詰められる感じ? ボタンだとめんどくさい?
どれもそうなんだが、なにか違う。

これまでのルールでもこういうことはあった。
こんな細かいルール、自分たちにしかわからない。律儀にルールをやりすぎる。
まあ、ルールがあるから脱線という演劇的な行為が際立つというのはもちろんある。しかし最初からそれだけを狙ってるというわけでもないのだ。

この「ひとつ決めたことにこだわる」ということから、私たちの雰囲気やカラー、つまり独自の(もしくは異質な?)演劇性が出てくるのではないかとうっすら思っている。思いっきり型にはめることで、逆に従来の型にはまらない方向を目指すというか……。
「キッカケがきたらボタンでバイーン」だとなにか違うのだ。
だから「時間でバイーン」が地点の演劇のつくり方だ、としかいえないのだ。

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イメージ:ほら穴のような地下室 酔っ払っている 病気 すさんでいる 空気が悪い 淀んでいる ごみ溜

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ルール
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状態
・舞台の奥にあるベンチに登場人物が重なり合って座っている
・足の裏が地面についたり人や物に触れたら「どん」、椅子や地面にお尻がつく、もしくはしゃがむ動作をすると「底」と言う

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発語
・発語する時はベンチから立って前に出ていく
・発語は基本客席に向かってする 相手がいる場合はその方向にすることもある
・発語している時も、歩いたり座ったりしたらその度に「どん」「底」を言う
・「バイーン」(ドアが閉まる様な音)が鳴ったら台詞は強制終了され、発語者はベンチに戻る
・「バイーン」が聞こえたら発語者以外の全員は「底!」と言う(例外あり) 
・「バイーン」から「バイーン」までの時間が決まっている(一人の持ち時間が決まっている)

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上演台本抜粋
「|」は足が(主に)床についたときに発せられる「どん」

Yuk(ペーペル) とんだこった!とんだこった!とんだこった!底!
Yoh 頭がいたい
Yuk これ|でも|、おら|ヤロ|スラーフ|おら|ヤロ|スラーフ|おらヤロスラーフ|の若え|もんだ、そうやす|やす|とは引っかからねえ。......矢でも|鉄砲でも|、来いってんだ......
Sie どん
Yuk あん? 一円二十銭|で買われてやらあ。
(アリョーシカ)煮て|食おうと焼いて|食おうと、勝手|にしやがれ! おら、なんにも要らねえ。やけのやん|ぱち|やんぱち|なんだ! さあ言ってみやがれ、だれ|がおれ|よか立派|なんだ? おれ|のどこが|、人様|より悪|いんだ? ざま|見ろ!
Sie どん
Yuk あん? だまれ、ばばあ犬め! このおれ|みたいな立派な人|間|をよ、一つ穴|の飲んだくれ野郎|が、あご|で指図し|やがるのがたまら|ねえんだ! いや|なんだ! 棺桶へ片足|つっこんでるくせに、小銭の勘定|ばかりしてやがる......ここにゃ、てめえ|よか下等|なやつは一匹|もいねえや。余計|な口をきくない
音楽バイーン
Yoh いて
全員 底!
Yuk (席に戻る)どんどんどんどん底!
Abe(ナースチャ) どいつもこいつもどい|つもこい|つもいやんなった!世|の中も世|の中も......人|間|どもも人|間|どもも!みい|んな!みい|んな!......
あ||たし、出ていこう......どっか||どっか||へ行っちまおう......世界|の果て|へでも! はだかで|さ! 四|つん|ばい|四|つん|ばい|四つんばいになってさ!(泣き)|あったんだよ! あっ|たん|だよ! 本|当の恋|恋|がね!......その学生さん|はね......フラン|ス人|フラン|ス人|で......ガストン|ガストン|っていって|ね......こう黒いひげをはやして、エナメルの長靴をはいていたん|だよ......おお|おお|、わがいとしの君|よ......あの人が、あたしに言うの|さ、あの人が、あたしに言うの|さ、あなたという者|なしには一刻|も生きてはいられません|
音楽バイーン
全員 底!
Yoh いててて、頭がいてえ。
Abe&Dai(席に戻る)どんどんどんどん底!

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