短編『何も気にならなくなる薬』その131
ダイエットというと、食べてはいけないものを並べてはため息をつくような印象があるが、
1日の三食のなかで他を抑えてどこかで楽しめれば良いのではないだろうか。
制限ではなく、選ぶ楽しさなのだと思う。今の時代ではある程度のものが何でも買える。
一つ買えば十分なはずなのに、ついついもう一個。
これがよくない。
パン屋のトレイにクロワッサンを一個だけ乗せてレジへ。
何も普通ではないだろうか。
たくさん並んでいる中で、一番食べたいパンなのだ。
より一層特別なものになる。
「鋳型」
「負けるが勝ち」
「ヤギ」
「今回は動物シリーズを作ろうと思ってな」
ヤギを型どった鋳型だと見せびらかしてはウキウキしている父。
ものづくりの好きな人を挙げろとテストで言われたならば、おそらく私は父を挙げるだろう。
「またお母さんに怒られるよ」
「いいや、そんなことはないぞ」
「どうせなら干支のほうがいいんじゃない?」
「お、それいいな採用!」
父とはあまり言い争いにならない。
私の言葉をすぐに取り入れてしまう。
羊の鋳型を作ったのは、この間の中学旅行で羊の牧場に行った話をしたからだった。
「どうしてそんなに簡単に人の意見を受け入れるの?学校じゃ皆が意見を言い合って物事が進まないのに」
「負けるが勝ちってことだよ」
「勝ち負けなの?」
「母さんには負けたけど、幸せだから勝ちだろ?」
思わずため息が出た。
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