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国連・障害者権利委員会による日本の第1回報告書審査――障害のある子どもの権利に関わる質問

【追記】(2022年9月10日)
 以下の審査の結果を踏まえた国連・障害者権利委員会の総括所見(先行未編集版)が、9月9日の夜に公表されました。障害のある子ども(第7条)、家庭および家族の尊重(第23条)および教育(第24条)に関する箇所を仮訳しておきましたので、ご参照ください。

 8月22日から23日にかけて、ジュネーブ(スイス)で国連・障害者権利委員会による日本の第1回報告書審査が行なわれました。審査の様子は以下のアーカイブ動画で確認できます。日本語による通訳および回答は、ボリュームマークの右にある丸(Language)をクリックして Original を選択すると聞くことができます。

-22日:https://media.un.org/en/asset/k1k/k1k93alkiw

-23日:https://media.un.org/en/asset/k1m/k1mf5n4xhk

 いくつか報道記事も出ていますが、佐賀新聞(共同)〈障害者権利条約国連が日本審査 障害者ら現地で課題訴え〉(8月25日配信)が比較的詳しいようです。

 OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)のプレスリリースも出ています。私も最近知ったのですが、プレスリリースの英語版とフランス語版はそれぞれ別のチームが独自に作成しているもので、いずれかの言語によるリリースを翻訳したものではないので、内容がけっこう異なっています。

1)Experts of the Committee on the Rights of Persons with Disabilities Commend Japan on Providing Compensation to Victims of Eugenic Surgery, Ask Questions on Institutionalisation and Inclusive Education(障害者権利委員会の専門家、優生手術被害者に対する補償を称賛するとともに、施設措置やインクルーシブ教育について質問)
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2022/08/experts-committee-rights-persons-disabilities-commend-japan-providing

2)Les experts du CRPD s'inquietent de l'institutionnalisation massive des personnes souffrant de handicaps psychosociaux au Japon et de prejuges profondement ancres a l'egard de ces personnes(CRPDの専門家、心理社会的障害がある人が日本で大規模な施設措置の対象とされていることや、これらの人々に対する根深い偏見を懸念)
https://www.ohchr.org/fr/press-releases/2022/08/experts-committee-rights-persons-disabilities-commend-japan-providing

 以下、障害のある子どもの権利保障に関してどのような質問が出されたか、プレスリリースから抜粋して紹介します。プレスリリースでは政府代表団の回答も紹介されていますが、回答は基本的に日本語で行なわれており、動画で容易に確認できますし、わざわざ訳すほどの内容でもありませんので、省略します。なお、最初に出てくるルシュクス委員(リトアニア)は、キム・ミヨン委員(韓国)とともに、国別共同報告者(Country Co-Rapporteur)として日本の報告書審査を主に担当した委員です。

(英語版)
……ルシュクス委員は、障害児教育との関連で見られる退歩についても懸念を表明した。一部の新たな国内法では障害児の特別隔離教育(special segregated education)が推進されており、障害児が医学的アセスメントの対象とされて、インクルーシブ教育の否定につながっている。……
(フランス語版)
 ルシュクス委員は、障害児の学校教育に関して見られる退歩を非常に懸念するとも述べた。実際のところ、条約批准後に制定されたいくつかの法律は、差別的な障害モデルを固定化させて障害児の分離教育を唱道しており、インクルーシブ教育を損なっている。
 ……
 ルシュクス委員はまた、日本が条約批准時に行なった第23条(4)〔「いかなる場合にも、子どもは、その子どもの障害又は一方若しくは両方の親の障害を理由として親から分離されない」〕に関する解釈宣言を撤回するつもりがあるかどうかを知りたいとも述べた。

(平野注/日本政府による解釈宣言は、「出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合」には同規定が適用されないと解する旨のもの)

(英語版)
 自己に影響を及ぼすすべての事柄について自由に自己の意見を表明する障害児の権利は保障されないことが多い。障害児の表現の自由を確保し、子どもの最善の利益を保護するために、どのような措置がとられてきたか。
 日本では障害児用施設で8,727人の子どもが生活している。児童養護施設に入所している、何らかの形態の障害がある子どもの人数は年々増加している。障害児の地域生活への移行のために、またあらゆる施設環境における児童虐待慣行を撤廃するために、どのような措置がとられてきたか。
 ……あらゆる場面で子どもの体罰を禁止するためにどのような措置がとられてきたか。……
(フランス語版)
 ある専門家は、施設または里親家庭に措置された障害児の表現の自由および最善の利益はどのように保護されているかと質問した。別の専門家は、国連・子どもの権利委員会が、あらゆる場面における子どもの体罰を禁止するよう、4回にわたって日本に勧告してきたことを想起するよう求めた。

(英語版)
 委員会の別の専門家は、障害児は暴力や非人道的取扱いをより受けやすく、また暴力の被害を受けた子どもの主張は疑われることが多いと述べた。障害児の意見が考慮されるようにするために、国はどのような措置をとろうとしているか。障害児に対する暴力を調査・防止するためにどのような措置がとられてきたか。
 委員会のある専門家は、障害児があらゆるレベルで早期介入およびインクルーシブなサービスにアクセスできることを確保するために設けられている措置について質問した。障害児に影響を及ぼすすべての事柄で、障害児の意見が正当に重視されているか。

(英語版)
 委員会のある専門家は、子どもが普通学校で十分な支援を受けており、普通学校が児童生徒にとって実行可能な選択肢となるようになっているかと質問した。
……
 委員会のある専門家は、子どもは普通学校と特別学校のどちらを選ぶか迫られるべきではないと述べた。条約は普通学校教育におけるインクルージョンを推進している。……

(英語版)
 委員会のある専門家は、障害児が親から引き離されることを防止するための法的規定について質問した。一部の教育施設では性教育が禁止されている。すべての障害児が性教育にアクセスできることを確保するためにどのような措置がとられているか。
……
 委員会のある専門家は、学校の儀式では児童生徒全員が国歌の起立斉唱を強制されていると述べた。障害児に対して、起立斉唱に代わる選択肢は用意されていない。どのような代替措置が検討されているか。
 普通学校におけるアクセシビリティの促進およびインクルーシブ教育に予算を配分するための政策または戦略はあるか。
 委員会のある専門家は、2016年には普通学級に在籍している障害児の人数が1,500人を超えていたが、2021年には1,200人前後への減少していると述べた。聾・盲の児童生徒が良質な教育を受けられるようにするためにどのような措置がとられているか。学校が障害を理由として児童生徒の受け入れを拒否しないようにするためにどのような措置がとられているか。
(フランス語版)
 ある専門家は、学校で義務化されている国旗掲揚儀式にも障害児が参加できるようにするためにどのような支援が行なわれているかと尋ねた。
 ある専門家は、ますます多くの障害児が他の子どもたちから分離されて教育を受けていると遺憾の意を表明し、インクルーシブ教育に関する子どもと親の意識を高めるために何が行なわれているかと尋ねた。

 なお、DPI日本会議〈障害者権利条約 初の対日審査(建設的対話)が終了しました。積極的な障害者施策の改善を強く期待します〉に、日本担当国別報告者のひとりであるキム・ミヨン委員が最後に行なったまとめの発言の書きおこし(日本語通訳)も掲載されていますので、あわせてご覧ください(英語版のテキストもすでに公開されています)。最後のほうは感極まって涙声になっている様子でしたが、政府代表団の不誠実な姿勢への失望を反映したものでしょうか。

 委員会の総括所見は、会期終了(9月9日)の翌週には、第27会期のページで先行未編集版として公開される見込みです(追記9月9日の夜に公開されました)。その他の関連資料もこのページに掲載されています(日本語による関連資料は外務省のサイトを参照)。

「障害のある子どもの権利」に関する国連・子どもの権利委員会と障害者権利委員会の共同声明(2022年3月21日発表)の日本語訳もご参照ください。


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