『ベルファスト』子供から大人へ

■ Watching:『ベルファスト』

製作・脚本・監督を務めたケネス・ブラナーが自身の幼少期を投影した自伝的作品。舞台は1969年の北アイルランド・ベルファスト。プロテスタントの暴徒がカトリック住民に攻撃を始めたことをきっかけに、穏やかだったはずのベルファストの日常が一変してしまう。ベルファストで生まれ育った少年・バディと彼の家族を中心に、いわゆる「北アイルランド紛争」の時代の始まりを感じられる一作。


この作品について書かれた文章を読む中で、幾度か出てきたのが「子供から大人へ」という表現だった。私の印象としては、作品を通してバディはずっと子供だった。無邪気で、明るくて、自分の道を自分で決めるだけの知恵や力はまだない。だから「子供から大人へ」というのはどうなんだろう、と少し違和感を感じていた。

しかしバディの人生を振ったときに、この映画で描かれている一連の出来事や時期が、彼が大人になるまでに上る階段の一つとなっていることは間違いないだろう。

バディは知る。実際に暴動に巻き込まれたとき、遊びで使う盾はなんの役にも立たないこと。好きな女の子の隣の席に座りたいという願いは、自分の頑張りだけでは叶わないこともあるということ。

バディは教わる。相手の気持ちを知るためには、話を聞くことが大切であるということ。たとえ信じる宗教が違っていても、好きな女の子と結婚して良いということ。

今すぐにそれが形としては現れなくとも、そういう積み重ねできっと彼は大人になっていくのだろうと思った。

では「あのとき自分は大人への階段を上った」と思うような時期が自分にはあるだろうかと振り返ってみても、思い当たる明確なものはほとんどない。たとえば暴動や戦争といったような出来事が子供の成長過程に与える影響は本当に大きいのだろうと思う。そのようなものから受けた影響の全てを一概に悪しと言えるわけではないのかもしれないが、やはり考えさせられる。


「ばあちゃんと結婚して50年だが、今も言葉が通じない」

グラニー(ばあちゃん)とポップ(じいちゃん)がとにかく良かった。劇場で予告を見たとき強く印象に残ったのが、このポップの言葉だった。映画本編を見て、グラニーとポップの関係性を知ったうえで聞くこの言葉からは、より一層深い感銘を受けた。

もう一つ、ポップの考え方で心に留めておきたいと思ったのが、勉強することについて。具体的な言葉は忘れてしまったのだけど、勉強をするためにはそれを面白がる(楽しむ)ことが必要だ、と彼は言っていた。まさにその通りだと思った。

(2022.04.21)


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