赤い炭を素手で!?そう簡単にやけどしない手、切れない手。
日本の小学校の野外炊飯では「軍手」は必須アイテムだ。やけど防止のため、当たり前のように手にはめる。
一方、マラウイでは、基本的に電気がないので、毎日が野外炊飯のようなもので、一般家庭では食事のたびに火起こしから始める必要がある。あまりにも日常で当たり前のことだから、軍手をはめて火起こしをする人は皆無だ。
■素手で熱い鍋も赤い炭も
マラウイの大学生寮に住み始めて間もなくの頃、面倒見のよい学生リチャードに、マラウイの主食である「ンシマ」の作り方を教えてもらっていた。
① 七輪に炭を入れ、火をつけ、鍋を火にかける。
② 水を沸騰直前まで熱し、トウモロコシ粉を少しずつ入れていく。
ダマにならないように、しゃもじで絶えず激しく混ぜていくのだが、鍋が動くから手で押さえなければならない。
そのかき混ぜ方たるや、ンシマがあふれんばかりの激しさだ。いや、実際に周囲にかなり飛び散っている。さらに、ンシマはマグマのようにポコポコ跳ねる。
「手にかかったら相当熱いだろうな〜」とか考えながら見学していたのだが、ふと気がつくと、リチャードは素手でちょこちょこ鍋をおさえていたのだ。1回につき1秒ちょっとはおさえている。
鍋は、ほんのちょっと触れただけでも、やけどレベルの熱さのはずだ。
「熱くないの?」
「熱いけど、我慢できるくらい。いつもやっているから慣れているんです」
とか言いながら、今度は炭の位置が気に入らなかったのか、真っ赤に燃え上がった炭を素手でコロコロ移動させている。なんという強さだ。
私も触発されて、試しにほんの少しだけ鍋に触ってみた。案の定軽いやけどをした。
そうこうしているうちに、ンシマができあがった。正直、作り方よりもリチャードの手の強さに気を取られてしまっていた。だから、食べるよりも先に、リチャードに彼の手を触らせてもらった。かたさが尋常じゃない。このかたい手の皮は、小さい頃から農業と家事で培ってできた賜物だ。
ついでに言うと、できたてのンシマも相当熱い。焼きたてのおもちの中に、指を突っ込むのを想像すると分かりやすい。手の皮が厚いマラウイ人にとってはなんともないのだろうが。
■小学生の調理実習
リロングウェTTC附属小学校のグラウンドを通ったとき、木陰で高学年が調理実習している所に、たまたま遭遇したことがある。
マラウイの子どもたちには、家で食事の準備の手伝いをするのは普通だからか、調理実習に際して、安全指導のようなものは特にないようだった。
食材と調理道具(と言っても包丁と鍋としゃもじとお皿くらい)を各家庭から持参して、「さあやってみよう」と始まる。マッチで火起こしだが、そこら辺に捨てられているビニール袋を拾ってきて、それを着火剤代わりにあっさり薪に火をつける。
日本では、火起こし自体がちょっとしたアトラクションになるが、ここではただの日常の行為だ。
3点かまどという、最も原始的な薪の置き方で女子が火起こしをしている間、男子はジャガイモの皮をむいて、切っていた。まな板などない。彼らにとってはいつものように、手に持って切る。ちょっとやそこらじゃ、厚い手の皮までは切れないのだろう。
さて、先生は、調理実習開始と同時にどこかへ行ってしまった。日本だったら大問題になりそうだが、マラウイではそれも問題ない。きっと料理ができあがった頃に、ふらっと現れるのだろう。
マラウイ人に、日本の小学校の調理実習・野外炊飯の時の安全指導の話をしたら、楽しそうに笑っていた。過保護過ぎて、その違いが想像を超えていて面白かったのだろう。
いくら笑われたとしても、私のやわな手のひらでは、生の鍋つかみには耐えられない。無理せず、それからも必ず軍手で鍋をつかむことにした。
安全第一だ。
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