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#連載
金魚掬い 第二話(3)
暫くすると、扉をたたく音がした。一瞬胸が締めつけられたけれど、音の位置であの子でないことがわかった。どうぞ、と言うと、美代子さんが顔を覗かせる。
部屋の中に静々と入ってきた彼女は、私と目を合わせようとはしなかった。それが軽蔑からくるものではないということに気付き、私も目を伏せていた。
黙って床に鏤められた金魚を拾い集め、床を拭く彼女を、黙って私も見ていた。
「お身体は、如何ですか」
「ええ
金魚掬い 第二話(2)
……がちゃがちゃ、と音がして、そのすぐ後にただいま、と言う菜々美の声が響く。その声は、夏祭り特有の華やかな色合いをしていた。
とんとん、という小さな足の音が、近づいてくる。「走ってはいけませんよ」という美代子さんの声にも、負けじと響く。
扉が、乾いた音を立てる。菜々美が声を発する前に、私はどうぞ、と言った。がちゃり、と音を立て、菜々美が顔を覗かせる。弾けるような笑みが、小さな身体から発せられて
金魚掬い 第二話(1)
夏が近づくと、滅法体力の方は衰える。その日も余りの暑さに、只々閉口していた。
菜々美は夏祭りを楽しみにしていた。「お母さん、絶対一緒に行きましょ」あんなに弾けるような笑顔を向けてくれていたのに、行けない旨を伝えるとふいにその瞳が揺らいだ。
でも、さすがだ。一旦下を向いたかと思うと、すぐに顔を上げて、こう言った。
「大丈夫、ばあばと言ってくるから」
もうあの子の真ん丸な瞳は、揺らいでいなかっ