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読書録: ゴールドマン・サックスM&A戦記

著者が実際に携わってきたM&Aの事例や、その際に感じたことを記したこの本は、おそらく著者自身のために書かれたのではないだろうか。著者は人生設計の中で、40代までには、社会に大きなインパクトを残せるような仕事をしたい、と考えていた、と述べている。おそらく、自分が30代・40代で行ってきた仕事の総まとめのようなつもりで、この本を書いたのだろう。自分と振り返るために書いたからこそ、「会社は個人のために何かをしてくれる見方ではない」「会社は敵とまでは言えないが、少なくとも会社と個人は常に対等な勝負の関係だ」という、著者のキャリア観を表す言葉が、通奏低音のように繰り返し登場する。

投資銀行業界に全く縁がなかった私からすると、全く違う職業を追体験しているようで、それだけでも面白かったのだが、ところどころにちりばめられている「著者が経営者から得た学び」も、自分にとっては興味深いもので合った。序盤(はしがき)において「日本企業の経営文化は世界の中で特異な文化ではあるが、決して比較劣後する文化ではなく、むしろ21世紀の世界の経済界にとって欧米にも学ばせる価値のある優れた文化である」と述べられ、それが後半(第5章)「日本の経営文化、特に正直にうそをつかず、身を粉にして働き、会社全体で成長の果実を共有し、ひいてはこれを社会全体と分け合おうという思想は、世界に誇るべき日本の経営文化だ」という論理の貫通をベースに、随所で、著者が経営陣との議論から得た学びが記されている。いちビジネスマンとして、記憶にとどめておきたいものが多かった。稲森和夫会長とのやり取りは特に面白かった。

「著者の20年(?)を追体験する」ことに価値を見出す人々にはぜひオススメしたい。具体的には、投資銀行を志している方や、投資銀行の仕事に興味がある方だ。一方で、何かしらのハウツーが(筆者の体験から学ぶ以上に)学べる本ではないので、巷のビジネス本のような「手っ取り早いソリューションや、思考のフレームワークを得たい」と思っている人には向かないだろう。

【おすすめ度】

★★★★☆


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