読書録: 『レジデント初期研修用資料 医療とコミュニケーションについて』

 この本は、医者を志す人向けに、患者とのコミュニケーションを指南するために書かれたものだ。だが、いちビジネスパーソンにとっても、学ぶべき点が多い良書であった。

 まず本書は、コミュニケーションを「状況をコントロールする技術」である、と定義している。状況のコントロールには「そこにある事実に対して自分の見解を持つこと」「見解を確立するために事実の改変を防ぐこと」の2つが大事であるとし、そのための技術を記述している。いかがだろうか、この定義からして、その辺のビジネス書よりも刺激的ではないだろうか?

 この定義から始まり、この本には、著者が医者という立場から様々な患者や医療関係者とコミュニケーションするなかで培ってきた、独特(と私には感じられた)の技術が多く書かれている。

 例えば、「受容可能侵襲量」という考え方がそうだ。詳しくは本書を読んでいただきたいが、簡単に言えば「人は会話するたびにダメージを蓄積していて、一定の間をおいたり少し時間をあけることで、そのダメージを減らすことができる」という考え方だ。それに科学的な根拠があるわけではないが、アナロジーとしてわかりやすいと思う。

 この本で述べられる医者と患者のコミュニケーションは、従業員と顧客・上司と部下・自身と同僚のようなパターンにも当てはめることができると思う。ケースが多く書かれているので、自分により関係がある設定に置き換えながら読んでみると、面白さが増すだろう。

 後輩からの紹介でこの本を読んだのだが、いい本に巡り合えてよかったと思う。これから年末が近づいてくる。もし時間があれば、ぜひご一読いただきたい。

おすすめ度: ★★★★★


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