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アートはみんなのために。そのために戦略的に。

今日、たまたま出張の飛行機の中で読んだ機内誌に、ロンドンの「ナショナル・ギャラリー」が特集されていました。

そこで、アートがみんなのためにあるために、戦略的である必要がある、と改めて思ったので、それについて書きたいと思います。

芸術文化とは、一部の人だけではなくて、みんなのためにある。みんなのための、美術館。市民のための、劇場。

本質的で大事なことだし、そうであってほしいと思います。

みんなのため、市民のため。だから公的資金、税金を投入する必要がある。基本的にわたしもそう思っています。

でも、理解を得るのが難しいこともある。

例えば、特にハード(ハコモノ)の場合。静岡県河津町の話。2017年10月、複合施設の建設をめぐり、

当初9億円とされた複合施設の総事業費が16億円以上に膨らんだことを問題視(産経ニュース)

し、住民グループがリコールを求め、町長のリコールが決定した、ということがありました。『町の計画によれば、複合施設には放課後児童クラブや300人規模の文化ホールなどが設けられ、大規模災害時には屋上が約940人収容の津波避難施設になる』そうで、もちろん住民のためではあったのですが、支持を集められず。それ以外の理由ももちろん複雑に絡むのが政治でしょうが、一つのきっかけとなったことは確かにありそうです。

市民のための施設だから、○○の機能が必要で、△△億円かかることになる。そうすれば、みんなが使いやすくて、きっとみんなのためになる。

そうはいっても、特に使わないと思っている人にとっては、その意義が伝わりづらい。その割に、大量の資金投下ばかりが目立つ。

だから、民間のお金でうまくやる(寄付など)か、公的資金を使うなら、その投資をするための説明責任を果たす必要が出てくる。

そのために必要なこと。それにはやはり、戦略的に、①長期的にお金のことをきちんと考えること、②普及啓発・教育をしていくことがまずあると思います。

ナショナル・ギャラリーにも課題はあるので、必ずしもモデルとは言い切れないのですが、①お金についてと、②普及啓発について、ナショナル・ギャラリーを例にして、書きたいと思います。

1.お金について

ナショナル・ギャラリー、私も大好きで、ロンドン訪問の際には、必ず行くレベルです。そしてそういう観光客の方も多いのではないでしょうか。

何が好きかというと、カフェに気楽にいられて、Wi-Fiがあって、何より無料で、いつまでもいられるレベルの素晴らしいコレクションが多数あるからです。(ポケモンGoのスポットでもあります笑)

ナショナル・ギャラリーは、「市民による市民のための美術館」として、1824年に英国政府が買い取った38点のコレクションから始まったそうです。

さすがだなぁという点は、「芸術と教育はすべての市民が享受するべき」という理念に基づき、常設展は入場無料(英国は無料の博物館、美術館、多いですね)。ナショナル・ギャラリーは、50%を政府からの公金、残りの50%を有料の企画展やカフェの収益によって運営しているというところです。

そもそも公金がそこまで入っているというのも驚きなのですが。多くの人に来てもらえるよう、有料の企画展の質をきちんと考え、工夫をし続けているそうです。おみやげやカフェの収益も、戦略的にとりにいかなければならないところですし、かつ、入場者には、5ポンドの寄付をお願いしています。

50%をどううまくやりくりしているかの詳細は調査していないのですが、やはり、「市民のため」として開き、常設展を無料で開放していくには、政府からの公金を含め、透明性を保ち、戦略的にお金のことを考える必要があるということ。

実際は、ナショナル・ギャラリーも苦労しているようで、これについては、やはり業界全体で考えていく必要がある点だと思います。

2.普及啓発について

最近は日本の美術館等でも複数ありますが、ナショナル・ギャラリーでは小学生等への教育・啓発プログラムを館内で積極的に実施しているそうです。これは、子どもたちへの単純な教育としての意味も持ちますが、なにより、小さいころから芸術に触れ、大人になってからのファンを育成する意味もあるかと思います。

以前、英国にある100年以上続く企業に関しての調査で、その内の多くは、地域の子どもたちに、企業の理念を伝える教育プログラム、学校等の教育機関との連携プログラムを持っている、という結果があったというのを見たことがあります。これもまた、自社の良さを知ってもらうための、広い意味での顧客開拓の一面があると。そしてもちろん、教育という意味で、公益的でもあります。

芸術文化事業、施設においても、顧客開拓・育成について、長期的、戦略的に考える必要があると思います。小さいころから無料で毎日のように美術館に行っていたら、そこで良い思い出があったら、きっと大人になっても、また行こう、自分の子どもも連れて行こう、となりますよね。

「みんなのための」「市民に開かれた」芸術文化というのは美しいし、本質ではありますが、それだけでは、広く市民の理解を得られない可能性がある。公的資金の流れについても、行政のトップの理解に大きく左右されてしまうような状況になりかねない。

やはり経営面・運営面で、それぞれが戦略的に考えていかなければいけないなと改めて思いました。

今後、特にお金のことについて、より詳細に書いていければと思います。

※参考文献

首長失職にみる文化政策の潮目の変化』衛紀生




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