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白猫バトルロワイアル<7話~最終話>

小人たちを観察していた間に
白猫に与えていたはずの亀裂が
すでに修復している

がっかりした!
すごろくで言えば
これはまさに『スタートに戻る』ではないか!

白猫は正真正銘の魔物だった
なぜこれほどまでに強力なのか?

突破口を求めて
白猫の活動エネルギー源をスキャンした

外部からの補強エネルギーは
『空間からの記憶エネルギー』で
内部の蓄積エネルギーは
『確保した人霊』だった

白猫の主食はなんと人霊!
やはり魔物なのだ

人霊を破壊することはできない
それは霊的な殺人になってしまう

そのときこちらの心を読んだ白猫の目が
ニヤリと光った!

「君は甘いねぇ~
だからいつまでも弱いんだよ」

何を言う!
そもそもそれ以前に
白猫の身体が硬すぎて
人霊まで攻撃が届くはずもないだろうに!

焦っては戦えない
とにかくここは落ち着いて
『空間からの記憶エネルギー』を詳細に
分析スキャンしよう

一般的に魔物という生命は
空間に漂っている人から発せられた
不調和な想念
(憎しみ・嫉(そね)み・妬(ねた)み・恨み・
悲しみ・怒り・苛立ちなど)を
直接のエネルギー源として
誕生そして活動する

しかしこの白猫の場合は
従来の魔物とはタイプが違う

過去の とある空間に とある人々によって
刻印された想念の『記憶』そのものが
外部からの活動エネルギー源のようだ

『空間からの記憶エネルギー』が
原動力である白猫には
無制限なエネルギーが
空間から補充され続ける

いつまでも永久機関として
その一族を根絶やしにするまで
確実に機能する
これは家に纏わる「呪い」のメカニズム

「呪い」 なんて迷信だと思っていた
この時代にはあり得ない
未開の時代の空想の産物程度だと侮っていた
単なるオカルトワードではないか!と

しかし
全ては完全に間違っていた
認識の甘さは
白日のもとに晒された

スキャンしてみよう
空間に刻まれた想念の記憶
その種類は怒りと憎しみ
85年前の
家に由来する仕事の諍いの記憶

空間の記憶は固定化した型枠のように
迷える人霊を含む不調和なエネルギーが
そこへ引き付けられ
型枠の内部に巻き込まれていく

そして形象化され
それは見かけ上
白猫という形の魔物となった

化け猫は誕生以来
近くの迷える人霊達をひたすら巻き込んできた

化け猫による空間牽引重力
モンスターキャットアトラクター
化け物の引き寄せの実現力
当てはまる概念はどれだろう

スキャンによれば
モンスターアトラクターという未知の要素は
かなり現実的で強い力だ
今後の魔物研究の着目点になり得る

さらには化け猫は
迷える人霊達を
どんな目的で利用しているのだろう

化け猫は内部に人霊を備蓄する
つまり食べると
効率的な蓄電池バッテリーとして
活用できることを意味している

燃料電池代わりにされた人霊たちは
たまったものではないが
彼らの意識は
とても薄まってしまう

人間の尊厳を喪失した
痛わしい姿
自分の名前も言えないほど
意識は薄まり
植物人間のような状態

化け猫が存在する限り
食べられた人霊たちは
牢獄につながれた
永遠の奴隷そのものであることがわかった

永遠の奴隷となっていた人霊たちに
かっこよく言ってみた

「ホワイトキャットプリズンにおける
霊奴隷解放作戦をここに宣言する!
あなたたちは自由と尊厳と生命の誇りを
今こそ取り戻さなければならないのであります!」

霊たちはぼーっとしており
何も聞こえていないようだ…

速やかに作戦を変更する
ちかみつは自動書記の一筆書きで
幾何学模様を紙に描き始めた

魔法陣登場!
それはエネルギーを発生させる
特殊な回路図のプラズマシステム

するとその上に
放心状態の小人たちが一人また一人と集まり
彼らはゆっくりと
普通の霊の大きさに戻っていく
ようやく奴隷から解放され
元の世界にやっと近づく

一方の白猫
現在いまだにダメージゼロ
白猫のエネルギー源である空間に刻まれし記憶
良かれ悪かれ記憶を刻印した人たち自身は
随分昔に皆 亡くなっている

刻まれた記憶だけが機能している
有効期間は無制限のようだ

その記憶の中身は
戦前戦後における地域の人たちによる
仕事や政治絡みのせめぎ合い
いがみ合いが混ざった想念の集合体

今から約90年前に遡る
この頃は田舎でも山の中でさえ映画館があるほど
現在よりたくさんの人口で溢れていた

多くの人たちが生活する中で
地域の利権争いは活発であったはず

争いによる負の想念が
特定の家に集中すると
その家周辺の空間は負の想念で刻印される

そして次には
その家に誕生してくる長男の遺伝子に
代々不調和な影響を与え続けることになる

ちかみつは長男
家と自分をスキャンすると
幼い頃から右肩に白猫が乗っていたのだった
それは胎児のときからずっと…

負の想念が
特定の家に向けて集中して刻印された結果
その家に誕生していく長男の遺伝子に
代々不調和な影響を与え続ける

そのためいつの世代も
長男は病弱であったり短命であったりする

「あそこの家って
代々長男さんが・・・不運のようだね」
というセリフは
たまに聞くフレーズではないだろうか

胎児のときから
白猫が肩に乗る
そうして誕生してきた
子供達をよく観察してみよう

子供達の
肩と首の筋膜は収縮しており
真っ直ぐな姿勢をしているはずが
斜頸という
首が横に曲がった姿勢となっているのが
特徴である

そして多くの人はそれが
運命のいたずらか…
たまたま悲劇が襲ったことなのか…
過去世のカルマなのか…
自分が納得のいくような理由を探すが
決して真実の解明までには至らない

長男であるちかみつには
胎児のときからずっと右肩に白猫が乗っていた
ちかみつも無表情で
森の妖精「木霊(こだま)」のように
首がカタカタと傾いていた

首が曲がっていたのを見て驚いた祖父は
必死で首をさすり
真っ直ぐにならないかと慌てふためいた

母はそのようなことをする祖父を睨みつけ
余計に首が悪くなるのではないかと
イラつきを隠せない

魑魅魍魎の入り乱れる家…
そんな家に生まれたちかみつには
“家系マトリックス法則”で出現した白猫が
セットアップされてしまい
幼少時のちかみつは
この世界自体に根拠の分からない
エネルギーの枯れた寂しさを感じていた

先祖の因縁を
遺伝子に背負い
先祖の功徳と呪いを
継承していく
そんな自覚はもちろんちかみつには無かった

そして今!
ようやく自覚できた
空間に刻印された呪いの記憶を消せばいい!
先祖や祖父そして叔父たちが浴びてきた
呪いのメモリーを!

今こそ消去魔法「ニフラム」!
空間のメモリーがデリートされていくにつれ
白猫が薄っすらと透明になっていく…

そして
白猫のお腹の中に
たくさんの小人たちが
見えてきた

消去魔法「ニフラム」は
無敵の白猫へではなく
空間のメモリーに向けて放たれた!

白猫はだんだんと薄っすら
透明になっていく
お腹の中にたくさんの小人たちが
再び見えてきた!

ついに勝負があったのか!
でもこのまま押し切ってもいいのだろうか
躊躇したちかみつは
攻撃の手を止めた
過ぎ去りし祖母の言葉を思い出していた

祖母
「K町に有名な名家のK家というのがあってな!
あの家の爺さんは戦後
地域のために財産投げ打って
みんなの世話をした立派な爺さんなんよ
もう死んだけどな!
だから見てみ!
地元の人みんながそれをしっかり今だに覚えとる!」

祖母の話によれば
地域から恨みをかった家系とは逆に
地域から祝福の届いている家系が
現実に存在していた
割合的に後者の数は多くはない

つまり先祖の因縁には
2つの方向性があるようだ!
呪われた家と祝福に包まれた家

地域の人に心底尽くして
たくさんの感謝や祝福が
その家の空間にメモリーとして刻印された家は
代々と不思議なほど幸福に包まれる
子孫の努力や失敗をも「底支えする力」
それは永遠の祝福の力

「祝福」と「呪い」は想念としては紙一重なのだが
方向性において真逆のもの
そして家系においては代々と影響力を放つ

地域からの「祝福」は家を守る力となり
家の人たちの自助努力のパワーと融合して
さらに特別な聖なるパワーに昇華することがある
それはミラクルに幸運が機能する家の繁栄の在り方
遠い時代の他人たちの感謝の想いと
現代の家の人の努力の融合が
その家を繁栄させ続ける
これが本物の「聖なる力」である

一方
地域からの「呪い」を
メモリーされた家は
先祖からの
見えない借金という遺産を
継承している

しかし
呪われた家でも
感謝や祝福という財産を築くことで
「呪い」を相殺することができる
これからの子孫たちに
真心を残してあげられるよう
他者への奉仕の人生をしっかり送ろう
それは先祖へ届く癒しともなる

内容がマイナスのものであれ
先祖が歩んだその軌跡
そのまま消すことを
ちかみつは少し躊躇した
消去魔法の手を止め
我が家に降りかかる「呪い」を
プラズマプログラムで解析した

85年前にできた大きなほころび
きっかけはそこにあった
些細な出来事から始まった先祖の因縁
それを「祝福」にローディングして
まるごと書き換えた

その瞬間
白猫はすでに消えていた
それと同時に
解放された小人たちの山が見えた
時間はかかりそうだが
だんだんと人霊の大きさに戻り
旅立っていく準備をするだろう
長いまどろみから覚める霊たち

過ぎ去りし記憶が彼らに蘇る
涙で霞むその先には
懐かしい親兄弟たちが手を広げて待っている
「安心して出発するんだよ
もう寂しくないからね」
そう声をかけると小人たちは
蛍が一斉に輝くような
無数の光となって旅立っていった

魔物の誕生は
いつの時代も人の心がその由来
真心溢れる生き方の深みを
人はどこまで
洞察できるのだろう

たとえ
生まれながら「呪い」を
刻印されていたとしても
きっと人生は変えられる
前を向いて進んでいこう
すべては他者のために


★『白猫バトルロワイアル』1話~6話はこちら

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