見出し画像

【8】「お願いを覚えてる?」

進行性直腸癌ステージ3、CVポート抗がん剤後に手術、生涯を人工肛門という告知と説明を受け止められずに、実家の隣に暮らす家からこっそり家出した私。どうしたいのか、どうありたいのか軸を持って帰ってきた。
2拠点生活を行き来していた夫にはコロナ禍で離れている間、メッセージや電話で連絡を取り合っていても家出のことは伝えていなかった。


私、抗がん剤しない。
手術、抗がん剤、放射線って、日本では「三大治療」以外の選択肢は無いけど他の国ではもっと選べる。東洋医学や免疫療法も含めて考えたい。
それから肛門は残してあげたい。人工肛門にはならない。

母や妹たち家族に顔を合わせて伝えた。夫には電話とメッセージで伝えた。

下の妹は、そうかと黙った。母は涙目で病院に戻って欲しいと言った。
夫は、いつもよりゆっくりとした話し方だった。
「気持ちは分かった。その上で今も腸閉塞のリスクがある。破裂したらどうするの?」と問うた。

「破裂しないようにする」問いに対する答えじゃないのはのは分かってた。
ゆっくり息を吐いた夫は「お願いを覚えている?」と聞いてきた。

覚えてる。プロポーズを受けた時だ。


ひとつだけお願いがある。
いや、お願いじゃなくて
ちかちゃんのミッションだ

1日だけでいいから
ワタシより長く生きてください

あなたの居ない世界を生きていたくない
ワガママだけど、エゴだけど
どんなに大変でも1日だけ長く生きていて
ワタシより1日だけ長く生きて欲しい
1日だけでいい

女性の方が平均寿命は長い、私は元気だし簡単じゃん。「そんなことでいいなら約束する」と私は笑って返事をした。

いまどき珍しくないけど私は離婚経験者。夫は2度の離婚を経験している。
子どもがいなかった私に対して、彼は最愛の娘たちと離れて生きていた。
一緒になってから2人で体外受精にも何度かチャレンジしたこともある。
私の大きな癌細胞の塊は15年前後かかって成長してきたと知り、妊娠できるような状態じゃ無かったと家出の間に納得していた。

「お願いを、守ってね」
「うん・・・・」

あの日、言われた時は笑えていたのに。
ジワジワと目の前が霞んだ。

情報を集めて治す。手術で開けたら何も無かったって話だってあるじゃん。
怖かった時期は過ぎた。夫の言葉に涙しながら、やる気に満ちていた。


#創作大賞2023 #エッセイ部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?