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国体後記

 2/20、一年間ずっと準備してきた試合が終わった。あまりにも呆気ない終わり方だった。年単位で準備してきたものが一分ちょっとしかかからないたった一本のレースであっという間に完全に消化された。その後は何も残らない。ほんの少しの達成感と、ああまた、やっぱり、満足いくパフォーマンスができなかったという圧倒的な落胆。自分にはレベルが高すぎる試合だということからずっと必死に目を逸らそうと努めて、しっかり準備してきたから、たくさん練習してきたから、と空を掴むような鼓舞の言葉をこれでもかと撒き散らし、でもどこかで絶対的に足りなかった、もっとできた、もっとするべきだったとずっと、最初から最後まで気付いてはいた。

 結局何も残らなかった。
 もう何もなくなってしまった。
 何かしたいという欲が、どうなりたいという希望が、試合が終わって四日経ってもまだひとつも湧いてこない。気を抜けば涙も出る。なんでもっと努力できなかったんだろうな。あまりにも呆気なかった。何もできなかった。身体を動かすことも、気持ちで負けないことも、結果が出たあとそれを受け容れることも。何一つ。

 「国体11位」という数字だけ見れば充分。現役引退して11年ぶりに復帰した前々回は14位、前回は21位だったし、なんなら現役時代も14位までしかいったことはなかったから今回は自己ベストリザルト。それなのになんだろう、どうしたって空虚すぎる。自分自身は何もできず立ち竦んでいるうちに周りがバタバタと体調を崩したり失敗したりして、はっと意識を取り戻したら11位という場所に呆然と立ち尽くしていた。実力に見合わない大層な場所に。

 オフシーズンに甘えがあった。スキー以外の趣味もたくさんあって、ゲームしたり、本読んだり、美容に勤しんだり、友達と遊んだり、そのどれも悪いことだったとは思っていない、これからだってきっとする。でもその時間の何割かを使ってもっと、もう少し、試合のことを考えていたら。

 慢心もあった。きっと予選は大丈夫。本戦もみんなお祭り気分だからゴールさえすれば大丈夫。あわよくば15位以内入って東京都のシード権確保できればもう最高だよね。そんなテンションだったんだ今思えば。だから本来は、ゴールできたからいいじゃん、過去最高順位ハッピーじゃん、って言えなきゃいけなかった。最初に自分で設定した目標を周りの空気に飲まれて直前で変えて、そんな迅速に対応できるわけなかった。最初からもっと真摯に目標設定をできていたら。

 なんとなくタイムリミットが見えてきた。シーズンインしてからある程度仕上がるまでにかかる時間が年々長くなっている。復帰した四年前は五日でできたことが一週間かかるようになっているし、疲労が解消される速度もどんどん遅くなっている。家族への負担も顕著で、あちこちからもうそろそろ白旗が上がりそうな気配がする。年齢で一つ若い組だった選手も、数年後にはきっとわたしたちの組へ上がってくる。十歳以上若い彼女たちと対等に渡り合えている自分の未来は、あまりにも想像に難い。

 来年がもしかしたら最後かもしれない。また何もできずやばいやばいと泣きそうになりながらただ滑落して終わるのだけは御免被りたい。今年の二の舞にはならない。順位ももちろんだけれど(ここまできたら一度は入賞とかしてみたいと思うのは、傲慢ですか)、何よりゴールしたときに「わたしよく頑張ったな」と思いたい。

 昨日の夜中に読み終わった武者小路実篤『友情』の感想文を書こうと思ってアプリを立ち上げたのに何をつらつらを書き散らかしたのかわたしは。

 あーもう。悔しいなあ。くそー。

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