星野店長の前に並んだ明日香と千尋。
「星野さん。私たち、今度お茶の初心者教室をやってみようと思っていて」
「あら明日香ちゃん、それ面白そうじゃない。どんな内容?」
「リバーヒルズのカルチャースクールで、お茶の淹れ方を教えるんです」
「あ〜二階堂さんのところね」
「お知り合いですか?」
「あそこの所長さん。二階堂さんって言ってね。去年はうちもイベントやったのよ。」
「どんなイベントだったんですか?」
「知り合いの管理栄養士さんがいてね。その人といっしょに『お茶の栄養と健康について』ってテーマでやってたの。今度紹介してあげる。」
「ありがとうございます!」
「ところで、その教室って二人だけでやるの?」
「はい。千尋と二人でやります」
「何のためにやるの?」
「最近急須を持っていない人が多いので、そういう人に少しでもお茶に興味をもってもらえるようなイベントにしたいんです。お店のお客さんも増えたらいいなと思って」
「だったら会社に助けてもらったら?その方が会社の名前も使えて、お客さんも集めやすいし」
「もし失敗して迷惑かけたらって思うと・・・」
「若い子がそんなこと気にしちゃだめよ!利用できるものは何でも利用したらいいの。何でも遠慮しないで相談してね」
「ありがとうございます。正直に言えば、準備するものとか、どういう話をするかとか分からないことばかりです。講師やる上で必要なことって何でしょうか?」
「美味しいお茶の淹れ方は新人研修で習ったわよね。それをそのまま説明するだけなんだけど。あなたたち、お茶は毎日淹れてるんだから、実践も問題ないし。あとは覚えたことをうまく伝えられるかだけでしょ?」
「こうやったらいいとか、何かアドバイスありませんか?」
「そうねぇ・・・。それじゃアドバイスじゃないけど、ひとつリクエストしてみようかしら?」
「えっ?!何でしょうか?」
「美味しいお茶はあなたたちはもう淹れられるから、逆に『ものすごく不味いお茶』を淹れてみてちょうだい。」
「・・・・・」
思い掛けない店長からの宿題に、明日香と千尋は言葉を失った。

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