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朝の連続長谷部小説【これが夢なら醒めないで】

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全ての働く大人達へ贈る物語
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#ジャスコ

第15章 スーパージェスコ

第15章 スーパージェスコ

 長谷部と三谷は屋上の柵にロープを括り付けると一人ずつ、するすると降りることにした。望美の働いていた四階喫茶店へは、思いのほかスムーズに入ることができそうであった。これも下準備通り、彼女が窓の内鍵を解除してくれていたからである。
「よっ・・と。」
三谷がまず先に片手でロープを掴んだまま、窓に手をかけ、足場を確認しながら中へと吸い込まれていった。イテッという声が響く。どうやら着地に失敗したようだ。長

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第10章 VSジャスコ(後編)

第10章 VSジャスコ(後編)

 熱い、それでいて息苦しい。そして・・真っ暗だ。冬服に全身埋もれた長谷部は動悸が収まらなかった。全速力で走ったせいもあるが、動揺していた。こんなに新鮮な空気のありがたみを感じたのは初めてである。何が起こっているんだ・・?
「おい、三谷・・。」
長谷部は三谷に聞こえるかわからないほどの僅かな声量で呟いた。が、しかしすぐに返事は来た。
「おう・・俺もよくわかってないんだ・・・。ただ、トイレから出て戻ろ

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第9章 VSジャスコ(前編)

第9章 VSジャスコ(前編)

PM9時。ジャスコ4Fの寂れたゲームコーナーでは、平日から二人の男がはしゃいでいた。昼間時間を潰し、たむろする大した趣味のない老人連中は、とっくのとうに帰宅し今頃はきっと、何の意味もない一日を終えようとしているのであろう。それはともかく、長谷部は珍しく浮かれていた。
「予習ってこういうことかよ。・・まあ悪くないけどな。」
100円を投入し15枚のメダルと交換している三谷に向かって長谷部はにやつ

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第8章 交渉

第8章 交渉

 香西は時計を眺めていた。午後4時15分。約束の時間から15分、未だに『やつ』が現れる気配はない。来店客が訪れるたび、怯え、姿勢を正し、横目で観察する。しばらく経ち、それが違うと気がつく。こうやってもうどのくらい過ごしたのだろうか。香西は疲れていた。

 昨晩のことだった。帰宅途中、電車から降り、携帯電話を確認しようと、歩きながら恐る恐るポケットに手を入れたその時、ちょうど着信が鳴り響いたのである

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