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2022年5月の記事一覧
第15章 スーパージェスコ
長谷部と三谷は屋上の柵にロープを括り付けると一人ずつ、するすると降りることにした。望美の働いていた四階喫茶店へは、思いのほかスムーズに入ることができそうであった。これも下準備通り、彼女が窓の内鍵を解除してくれていたからである。
「よっ・・と。」
三谷がまず先に片手でロープを掴んだまま、窓に手をかけ、足場を確認しながら中へと吸い込まれていった。イテッという声が響く。どうやら着地に失敗したようだ。長
第12章 セカンドチャンス
4畳半ほどの洋室は、外の寒さとは裏腹に、異様な熱気に包まれていた。
「・・・これ案外イケるな。」
明らかにしなびた饅頭をほおばり、三谷は壁にもたれかかっていた。香西は無表情で椅子に座り、机に肘を乗せ頬杖をついている。くたびれた野郎どもが三人、各々の時間を過ごしていた。時計の針は既に1時15分を指している。もう深夜だ。香西課長の書斎、というのにはあまりにも粗末すぎるこの小部屋に、長谷部たちは潜伏す
第11章 人生の主人公
その扉を開けた瞬間、冷たく、しかし澄んだ風が体の中まで吹き抜けた。そうだ、忘れかけていたが今は3月の夜なのだ。
あの黒服がどこまで追ってきたかは分からない、それでも長谷部は未だに全速力で走り続けていた。それなのに、だ。出口を出て三谷の逃げた方向へと駆け出そうとすると、今度はまた守衛らしき男が二人、こちらに向かってくるのが見えたのである。
「なんだよ・・。」
長谷部は回れ右をして折り返し、南東の
第10章 VSジャスコ(後編)
熱い、それでいて息苦しい。そして・・真っ暗だ。冬服に全身埋もれた長谷部は動悸が収まらなかった。全速力で走ったせいもあるが、動揺していた。こんなに新鮮な空気のありがたみを感じたのは初めてである。何が起こっているんだ・・?
「おい、三谷・・。」
長谷部は三谷に聞こえるかわからないほどの僅かな声量で呟いた。が、しかしすぐに返事は来た。
「おう・・俺もよくわかってないんだ・・・。ただ、トイレから出て戻ろ
第9章 VSジャスコ(前編)
PM9時。ジャスコ4Fの寂れたゲームコーナーでは、平日から二人の男がはしゃいでいた。昼間時間を潰し、たむろする大した趣味のない老人連中は、とっくのとうに帰宅し今頃はきっと、何の意味もない一日を終えようとしているのであろう。それはともかく、長谷部は珍しく浮かれていた。
「予習ってこういうことかよ。・・まあ悪くないけどな。」
100円を投入し15枚のメダルと交換している三谷に向かって長谷部はにやつ