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朝の連続長谷部小説【これが夢なら醒めないで】

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2022年4月の記事一覧

第6章 課長の秘密

第6章 課長の秘密

 雨に打たれ、濡れに濡れた二人は悲鳴を上げながら長谷部のアパートへと転がり込んだ。
「寒い寒い寒い。ひー。」
着ていたジャンパーを脱ぎすて、三谷は大げさに震えながら騒いでいる。彼は、かなりくたびれたジーパンにスタジャンを羽織るスタイルだったのだが、このジャンパーがもともとダボっとしていたこともあって、水を含むとかなり重そうに見える。長谷部は三谷にバスタオルを放り投げた。
「サンキュー。」
三谷は礼

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第5章 三谷という男

第5章 三谷という男

 「おい・・長谷部、見てみろ。」
三谷は前を向いたまま、眩しさのあまり目をこすっている長谷部に声をかけた。
「駅・・?」
分岐した地下線路にポツンとたたずむ駅を見て、長谷部は首をかしげた。
「ああ、こりゃすげえぞ。」
三谷は興奮した様子で、光るホームへと走っていった。長谷部はそのあとをトボトボとついていく。
「よっと。早く来いよー。」
軽々とホームに登った三谷は、キョロキョロとあたりを見渡した。何

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第4章 終点の向こう側

第4章 終点の向こう側

 激しい頭痛に襲われながら、長谷部は辺りを見渡した。シーンとした電車内。最初は真っ暗だと思っていたのだが、よく見るとぼんやり、座席や、つり革が確認できるような気がする。
「おいおい、どうなってんだよ・・・。」
長谷部は立ち上がり、携帯電話を取り出した。しかし、
「まじかよ・・。」
昼間仕事をサボってアプリゲームをしすぎたせいで、とっくに充電は切れていたのである。
仕方がないのでとりあえず、手探りで

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第3章 学生時代

第3章 学生時代

 ふと、気がつき、顔を上げると、長谷部は教室にいた。ここは、小学校・・?
教室の一番うしろに長谷部は立っていた。休み時間なのか、児童たちは走り回ったり、黒板に落書きをしたりして、騒がしかった。窓があいており、ベランダからの風が薄汚れた白いカーテンをなびかせている。その隙間から光が差し込んで、眩しい。
「おい、どうするよ今夜。いよいよだな。」
いきなり声をかけられビクッとする長谷部。振り返ると、そこ

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第2章 旧友たち

第2章 旧友たち

残業で遅くなった長谷部が旧友たちのいる居酒屋に到着したのは、夜9時のことだった。
大学時代からこの店の存在は知っていたが、実際にはいるのは初めてである。入口は狭く、入るとやや薄暗い。狭く、しかし、向こうに目をやると、奥行がある店内は手前がテーブル席、奥の方に座敷席があるみたいだ。テーブル席の一番奥、そこで岡と林は既に晩酌を始めているのであった。
「おー!長谷部!遅かったな!はっは、元気にしてたか?

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第1章 サラリーマン

第1章 サラリーマン

駅まで歩いているその途中、雨が降りだした。降水確率30%だったにもかかわらず、だ。
「くそ、ついてねえな。」
長谷部は小走りで駅へ向かう。駅前のアズナスで新聞とパン、ジュースを購入すると、ホームで電車を待ちながら、食べる。毎日の日課である。長谷部は証券会社に入社してから研修中を除いて1年間、毎日ずっとこんな朝を過ごしている。電車が来る、乗り込む、中を見渡す・・やはり今日も座れる隙間はない。ドアにも

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プロローグ

プロローグ

小学校のとき、あれは、5年生の時だろうか。どういう科目の授業だったか、それは何も覚えていないのだけれど、人生について、おそらく生まれて初めて考えるきっかけになった出来事がある。
教卓に立っているのは髭面の、色眼鏡をかけた中年教師だった。
「よく聞け。人はみんな、沢山の種を抱えて生まれてくる。」

三谷先生。教師らしからぬその風貌、それに加えて変なこだわりを持っている、と生徒たちからは思われていたに

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