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時代に合わせて新市場を開拓!小さな酒蔵が挑戦する「伝統と革新 」

「家業の酒造りを次の世代に受け継ぎたい」。三重県で江戸時代から代々酒造りをされている河武醸造株式会社様。従業員数8名の小さな酒蔵です。河武醸造様が造られているお酒は、地元酒販店を中心に流通。晩酌アイテムとして愛されてきたお酒です。

しかし飲酒習慣の変化と選択肢の多様化によって、20年間売上は下降傾向に。このままでは事業が立ち行かなくなる。家業である酒造りを次世代に受け継ぐため、何か手を打たなければ。家業再興に向けた活路を求めてご相談をいただきました。

事業再興を支える「活路」とは

まず着手したのは、事業再興の突破口をみつけること。販路開拓・新商品の投入・事業の多角化の3択が一般的なアプローチです。

河武醸造様の場合は、今の社内のリソースでは多角化は難しい。また既存銘柄のライフサイクルは成熟期を過ぎ、衰退期に差し掛かっていました。既存銘柄に手を加え再起を図るには、膨大なリソースが必要。新しい銘柄を立ち上げて、それをブランド化。河武醸造の「新しい顔」を作るという方針を定めました。

縮小する国内市場で選ばれる「新商品」とは?

新商品の明暗を分けるポイントは、勝てる市場を見つけることです。従来は、消費者の年齢・性別、居住地、趣味嗜好などを軸に市場を分類するのが主流。しかし日本酒のように、競合が多く飽和状態の市場では、どの市場も既にライバル商品があります。ライバルがいない新しい市場で勝負したい――。そこで、従来とは違う軸で市場を分類することに。

具体的には、日本酒に対する消費者の意識に着目しました。製法や飲み方で細かく分類される日本酒。造りや味の違いに敏感なコアなファンの存在は多く知られています。一方で、「日本酒に興味はあるが、敷居の高さを感じている」という層も一定数存在します。この顧客層に向けた「初めての日本酒選び」と市場を定義し、ビギナーでも手に取りやすい商品を目指すことに。新しい切り口で市場を分類し、市場機会を見出すことができました。

ターゲットに沿って商品を作り込む

⒈ お客様視点の商品設計

「初めてでも手に取りやすい日本酒」というコンセプトを商品に落とし込みます。まず見直したのは、純米大吟醸・純米吟醸という表記。日本酒の知識がない消費者には違いが伝わらず、選ぶのは至難の業です。そこで口当たりや味わいを、SWEET/RICH/FRESHとダイレクトに表現。日本酒に詳しくなくても、好みに合わせて商品が選べるように、4種類をシリーズ展開。720mlボトルで、2,000~5,000円の価格設定。ワインのような感覚で、贈答用やちょっと贅沢な晩酌用として手に取りやすいラインナップです。

また商品パッケージでも、従来の日本酒のイメージを払拭。透明感と余白を活かした、スマートなデザインに。伊勢神宮の旧境内という立地を活かした神秘的なロゴを施しました。商品名は、形・作法という意味を持つ「SHIKI(式)」と命名。家業である酒造りを継承する、そんな思いが込められた名前です。商品のルーツや歴史性、作り手の想いをブランドデザインで体現。商品パッケージとWebサイトで世界観を作り上げました。

店頭でパッと目を惹き、日本らしさを直観的に伝える。次に商品の特長を端的に表現し、選びやすくする。この2段階を押さえたことが、ターゲットを意識した商品設計のポイントです。

⒉ 商品とお客様の出会いをデザイン

SHIKI(式)のターゲットは、まだ日本酒と接点の薄い「日本酒ビギナー」。そのようなターゲットに合わせて販売先を開拓します。

新たな卸先として目をつけたのが、飲食店や宿泊施設。特に近年人気の「日本らしさ」をコンセプトにした店舗とは好相性。日本食や神社仏閣・旧跡に関心の高い顧客が集まり、食事や旅行の流れの一部として、日本酒に触れていただけます。料理に合わせて一杯ずつオーダーできることもあり、「初めての日本酒」へのハードルがグッと下がります。

また店舗側にとっても、自社のコンセプトともマッチするSHIKI(式)の世界観は魅力的。自店舗のサービス価値を高めるアイテムとして取り入れやすい商品です。

このようにターゲットや商品の狙いに沿って、新たな販売店を獲得。全国に販路を広げることができました。

⒊ ストーリーの力で印象に残るブランドに

商品を市場に定着させるには、記憶に留めてもらうことも重要。そのために活用したのがブランドストーリー。

伊勢神宮のお膝元で、代々酒造りを継承。家業を受け継ぐため挑戦する姿勢は、伊勢神宮に息づく式年遷宮に通じる世界観です。そんな商品誕生の物語を紐解き、地元伊勢に伝わる「常若(とこわか)」という言葉に沿って紹介。特にブランドサイトでは、山々が連なる神聖な景色とリズム感のあるレイアウトで表現しました。

ただ想いやこだわりを詰め込むのではなく、商品パッケージ・ブランドサイト・パンフレット等、様々な場面でデザインを通して表現。各アイテムが醸し出す統一された世界観がブランドストーリーともリンク。作り手の想いに触れることによって「特別な逸品」へと、ブランドの価値が高まります。

会社を代表する「新しい顔」に

従来とは異なる切り口で新しい市場を開拓。顧客視点の商品づくりによって誕生した、河武醸造様のSHIKI(式)。「日本酒業界の常識」に捉われない商品の見せ方で、新たな時代を切り拓きました。

ターゲットが明確でストーリー性がある商品は、メーカー・卸業者・小売店、それぞれにとって売りやすい商品に。SHIKI(式)の世界観に惹きつけられ、高級ホテルや料亭から声が掛かるまでに。新しい市場で、順調に販路を拡大。酒蔵が挑む「伝統と革新」を体現する銘柄、SHIKI(式)。当初の描いた通り、河武醸造様の将来を支える「新しい顔」に育っています。