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【選挙ウォッチャー】 大阪維新の会のファクトチェックチェック(#03)。

 今、大阪維新の会が熱心に力を入れているのがファクトチェックです。SNS上にあまりにも「維新憎しのデマ」が蔓延っているので、それらをアカウントごと晒し上げ、デマ野郎のレッテルを貼ることで言論を封じようという作戦です。
 しかし、これまでお届けした第1弾と第2弾は、検証した結果、ちっともデマではなかったことが判明。ファクトチェックというより、ただの言い訳になっていたのですが、懲りることなく第3弾を出してきまして、これがまた最高に胡散臭いことになっていましたので、さっそくチェックしてみることにしました。


■ ファクトチェックチェック(#03)

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 今回、第3弾で取り上げられたツイートは、「厚生労働省からPCR検査を徹底しろと通知が来たのに、松井一郎市長が放置をした」という内容でした。まずは、ツイートを見てみましょう。

「来た!! これ、めっちゃ大事やから、マジ拡散してな。これで維新倒せるかもしれへんねん。松井くんに厚労省から、高齢者施設のコロナが増えてるからPCRしろ! 絶対やぞ、って通知来たのに、放置ですわ。都構想の敗戦処理が忙しかったから、おかげでどんだけ施設の高齢者と職員が苦しんだか、責任取れ!」

 まずは皆さんに知っていただきたいのは、大阪がどんな状況だったのかということです。ABCニュースが今年1月19日に報じたニュースでは、昨年の秋以降からの第3波で、大阪府内の高齢者・障害者施設で発生したクラスターの合計が累計で100件を超えてしまったといいます。
 皆さんもご存知の通り、新型コロナウイルスは「高齢者ほど死亡リスクが高くなる」という性質があるため、高齢者施設でクラスターが発生してしまうと、当然、致命率や死亡率は上がってしまいます。

致命率=感染者あたりの死者数。
死亡率=人口10万人あたりの死者数。

  現在、日本全体の新型コロナウイルスによる致命率は、3月12日23時59分時点で、感染者が44万6318人、死亡者が8535人となっているので、1.9%となっています。一方、大阪府内の致命率はどうなっているのかと言うと、感染者が4万8094人、死亡者が1150人となっているので、2.3%となっています。全国平均からすると、やや高めです。
 しかし、もっと深刻なデータは「死亡率(人口あたりの死者数)」です。東京のように人口が多ければ、それだけ感染者数や死亡者数が多くても不思議ではないということになるわけですが、第3波が猛威を振るっていた年末年始の大阪の死亡率は6.5人。東京が1.8人で、全国平均が2.8人だったので、大阪の死亡率の高さは「異常」です。(大阪の皆さんに優しいデータをご紹介するなら、当時、北海道の死亡率は7.2人でした。)
 とにかく大阪は、新型コロナウイルスで人が死んでいます。他の自治体に比べて、とにかく人が死んでいる。それを踏まえていただいた上で、大阪維新の会のファクトチェックは、どこをポイントにしているのかを見てみましょう。

【POINT①】
・令和2年11月19日に厚生労働省から都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部(局)宛に高齢者施設等での検査の徹底を求める事務連絡が発出されている。
・事務連絡では高齢者施設等の入所者又は介護従事者等で発熱等の症状があれば必ず検査を実施し、その検査の結果、陽性が判明した場合には、当該施設の入所者及び従事者の全員に対して原則として検査を実施することを求めている。

 簡単に言えば、大阪市の担当部署に、2020年11月19日に厚生労働省から通達が来て、高齢者施設で陽性になった人がいた場合には、関係者全員を検査しなさいと言われたという話です。ここまでは、ツイートしている人が言っている通りです。

【POINT②】
これに先立って11月18日に行われた大阪府の新型コロナウイルス感染症対策協議会では、大阪市はもとより、大阪府下18の全ての保健所管内において、高齢者施設でのクラスター対策について1例でも感染者が発生した場合は関係者全員を検査することが既に徹底されている旨、府の健康医療部長より報告されている。

 このファクトチェックの悪質なところは「大阪市」と「大阪府」をゴチャゴチャに語られているところにあります。まず、ここで紹介されている「感染症対策協議会」はどこで開催されたのかと言うと、「大阪府」です。「大阪市」ではありません。つまり、これは吉村洋文案件であって、松井一郎案件ではないということになります。
 もしかしたら、大阪府の話だけど、やる気に満ち溢れた松井一郎大先生がわざわざ市役所から府庁舎まで乗り込んで行って、この会議に参加している可能性もゼロではないかもしれないと思ったのですが、松井一郎市長の動静を見てみると、こうなっていました。

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14時00分:市長執務室で打ち合わせ。
15時30分:市長執務室で打ち合わせ。
17時00分:特別会議室で戦略会議。

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 大阪都構想の住民投票が行われたのが11月1日。あの歴史的敗戦から3週間も経っていないので、松井一郎大先生は、市役所の会議室で、政策やら戦略やらを話し合っておられたのでした。なので、松井一郎大先生が「大阪府」の「感染症対策協議会」に参加した形跡はありません。
 大阪維新の会のファクトチェックによれば、この「大阪府」の会議で、担当者のオッサンが「大阪府の高齢者施設のPCR検査はバッチリだ」と言ったので、大阪府全体でバッチリだということは、イコール、大阪市もバッチリだということで、翌日に厚生労働省が通達が出したらしいですけど、前日に担当者がバッチリやと言うているもんですから、バッチリなもんはバッチリだということで、大阪市はいちいち厚生労働省に言われんでもPCR検査が徹底されていたという話になっています。


■ 本当に大阪市で高齢者施設PCR検査が決まった日

 大阪維新の会によれば、11月18日にはとっくに高齢者施設のPCR検査が徹底されていたと言っていますが、今年1月13日の「大阪市新型コロナウイルス感染症対策本部会議」では、高齢者施設を管轄する福祉局長がこのような報告をしています。

「高齢者施設等については、370施設において、1119人の陽性が発生し、この内、155施設507人が12月以降に発生している。非常に増えてきている状況となっている。障害者施設等については、149施設において、282人の陽性が発生し、この内、53施設107人が12月以降に発生している。こちらもかなり増えてきている」

 大阪市内の高齢者施設や障害者施設が、クラスター発生しまくりで、とても大変なことになっている。大変なことになっているのであれば、何か手を打たなければならないということで、この時、福祉局長が対策について、こう答えていました。

「高齢者施設等における従業員に対するPCR検査は、保健所とも協議を行い、検討してきた。高齢者施設は入所施設等も含めると5万人から6万人の従業員数が見込まれる。できるだけ早く実施を進めるため、特にリスクの高い特養、介護老健施設、障害者の入所施設の約300施設2万人を対象に絞り込み、まずは実施していきたいと考えている。検査の頻度は1人あたり2週間に1回程度と考えている。実施の方法は、保健所の業務圧迫を考え、いわゆる確定診断、陽性の確定といったところまでを一括して民間の検査事業者に委託する方法で進めたいと思っている。開始時期は、現在は2月からを想定しているが、調整がつけば1月中からでも、できるだけ早く実施したいと考えており、2月・3月で1人4回は検査を受けていただける」

 大阪維新の会のファクトチェックによれば、高齢者施設のPCR検査は昨年の11月18日の時点ではバッチリとキマっていたと言っていますが、大阪市の議事録を見てみると、今年1月13日の感染症対策本部会議で、2月からPCR検査を進めたいと言っているのです。
 改めて、ファクトチェックに書かれている文書を読んでみましょう。

・また、大阪市において、高齢者施設等の従事者に対して地方単独事業として、おおむね2週間に1度のサイクルでPCR検査を行うこととし、全国に先駆けて、より重点的にクラスター対策を徹底している所であり、その事例については厚生労働省から全国に紹介されている。

 なぜ大阪維新の会の人たちは、時空が歪むのでしょうか。厚生労働省に紹介されたのは、今年の2月4日の話です。しかも、「2月から3月にかけてPCR検査をやろうと思っています」という計画の話で、これは高齢者施設や障害者施設で100件以上のクラスターが発生し、ヤバくなっちゃってから編み出した作戦に過ぎません。これはけっして11月18日より前に行われていたものではない。ということは、最後に解説として書かれているものが、だいぶ怪しくなります。

【解説】
今回、ポイントの②について事実関係を整理したところ、大阪府・市は厚生労働省の事務連絡に先んじて高齢者施設のクラスター対策に力を入れていたことが分かり、特に従事者への定期的なPCR検査については参考事例といて厚労省から紹介もされている。
元ツイートは別の人物のツイートによる「大阪市が厚労省事務連絡を受けた後に検討した内容の資料一切を開示せよという情報開示請求に対して大阪市から「不存在」との回答があった」という趣旨の発信から、大阪市(松井市長)が厚労省事務連絡を受けながら放置したと断言しているが、実際には大阪市が厚労省事務連絡よりも以前から事務連絡の内容に先んじて履行していたために、事務連絡を受けた後に検討した資料は不存在であったものである。

 少なくとも、従事者への定期的なPCR検査は、今年2月から3月にかけて行われているものであるため、11月18日の時点でやっていたものではありません。解説者の時空が歪んでいます。
 それと、厚生労働省の事務連絡を受けた後に検討した内容の資料は存在しなかったかもしれませんが、高齢者施設や障害者施設でクラスターが発生しまくってしまい、ヤバくなってから検討した資料だったら、1月13日の議事録に残っていました。
 大阪維新の会が「先んじて履行していた」とドヤ顔でかましているPCR検査作戦は、大量のクラスターが発生した後の話なので、まったく先んじていないどころか、高齢者が感染しまくり、全国的にも非常に高い死亡率を叩き出した後に「やべぇ!」となってからの後手後手の後手後手の手です。一体、どの口で「先んじて履行していた」と言っているのでしょうか。先んじて履行していたら、今頃、こんなに高齢者施設や障害者施設でクラスターが発生しまくってないでしょうが!
 ということで、今回わかったことは、大阪維新の会のファクトチェックの担当者は、「大阪府」の話と「大阪市」の話を都合良く混ぜて語り、ついでに時系列まで歪んでいるため、実際には何一つファクトチェックできていないということです。もし、本当にツイート主がデマを撒いているというのであれば、11月19日の通達以前に、大阪市が高齢者施設や障害者施設の従事者たちにPCR検査を繰り広げていた証拠を出すべきだと思います。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

 おそらく大阪維新の会は、自分たちを支持してくれる人たちは、基本的に情弱なんだと思っているのだと思います。だから、ちょっと調べればわかるようなことを、市と府と時系列をゴチャゴチャにして語るのです。
 高齢者施設や障害者施設の従事者たちに無症状でもPCR検査を受けてもらう作戦は、どこよりも早く大阪維新の会が考え出したことになっているようですが、半数近い都道府県で既に実施されているか、検討されています。
 2月12日に「しんぶん赤旗」が報じたところでは、秋田、茨城、栃木、埼玉、東京、神奈川、長野、岐阜、静岡、京都、奈良、鳥取、広島、香川、福岡、長崎、宮崎、沖縄の各都府県が、医療機関、高齢者・障害者施設の無症状の職員に、少なくとも1回以上のPCR検査または抗原検査を行っているといいます。
 ちなみに、高齢者施設と障害者施設でクラスター大爆発となってしまった大阪市では「従事者にPCR検査をしよう」ということになりましたが、他の都道府県では既に始めているところがありました。吉村洋文知事がテレビに出まくって、どこよりも早く手を打っているとアピールする割に、実際を調べてみると、まったく早いわけではないというのが大阪維新の会の実態です。
 さあ、あとは大阪維新の会からのファクトチェックチェックチェックを待ちましょう。

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