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【小説】謳歌 (2) - 13歳、初恋

前話

11月、13歳の誕生日を迎えた頃。
その人のことを考えるだけで、体が熱くなり、じれったかった。
有名な恋愛ソングで歌われているような言葉の意味が、なんとなく分かるようになっていた。

入学早々、男子の輪には溶け込めず、かと言って女子の輪に入ることもはばかられる空気があった。私は体の性別の違和感を抱えたまま、中途半端な存在として、淀んだ中学生活を送っていた。

あるとき、LGBTについての授業があった。
「クラスに一人はLGBT」など、ネットで調べれば誰でも手に入れられるような表面的な話や、動画サイトで見た覚えがあるようなビデオを見て終わった。私が知りたかったのはLGB(指向)とT(身体性)が一括りにされている理由とか、先生自身の体験談とか、調べてもわからないようなことだったのに。学校なんてあてにならないと思った。

直後、クラスの不真面目な層が、距離感の近い女子達をレズと揶揄したり、ゲイのふりをして笑いをとろうとしたりと、真新しいオモチャを手に入れたかのように悪ふざけに興じていた。そいつらはクラスの中でも特段相手にはされず、私も馬鹿馬鹿しいと思っていたが、内心では自分自身が標的にされるのではないかと怯えていた。

それを打ち破ってくれたのが〈彼〉だった。
体格が良くバスケ部で活躍し、温厚で成績も優秀な〈彼〉は、存在感はクラスの誰よりも強かった。連中のヒートアップする悪ふざけに対して発言してくれた。

「この中にいる誰か(LGBT当事者)が聞いたらどう思う?」

その声を聞いた瞬間、脳裏に鮮やかなイメージが浮かんだ。それば私と〈彼〉が一緒にいる幸せな光景だった。些細なことがどうでもよくなるくらい、私の心は〈彼〉に奪われていた。今までにない感覚だった。

『ごめん、そんな風には見れない』

〈彼〉から送られてきたメッセージには、笑顔と汗の絵文字が添えられていた。

勇気を出して連絡先を聞き出し、〈彼〉の好みに合わせながら、少しずつ砕けた話ができるようになってきたところで、想いを文字に乗せて告白した、その答えだった。
絵文字は一種の気づかいだっただろうか。
いずれにしても、私の初恋は、手のひらの上で終わった。

『でも、宇多川くんのことは理解したい』

『宇多川さん、がいいのかな?』

私が返信せずにいると、數十分後にメッセージの続きが送られてきた。私はその文面から誠実さを感じ取った。この人なら大丈夫かも知れない、そんな期待が頭をもたげた。

『ゆう、って呼んで。』

『わかった、ゆう』

それから、〈彼〉との「交友」が始まった。

(続)

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全4話のショートショートです。
こちらの”U”の子が主人公です。

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