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来日客の「不満」の「不」を解消。好感度を全国4位に大躍進■洞察(インサイト)

私は、インサイト(洞察)とは、「消費者自身も把握できていない無意識の欲望」を見つけて、それを満たすような創造活動をして消費者に提供することで、消費者を一段深く幸せにする、ということだと解釈しています。ここは心理学的アプローチや哲学の現象学的アプローチを丹念にすることで様々な企画が生まれるはずです。

この無意識の欲望をどう捉えるか?が鍵となります。その人(集団)と同じ行動などを自分がするとしたら、と想起して、そこから自分の心を省察して、「自分ごと」として自分をさらに楽しませる具体的アイディアを導き出す)というプロセスですが、そのエッセンスは、「他人の欲望のありかを見つけ、自分ごととしてとらえ、その欲望を深く満たすための手法を考える」ことかと考えています。

この発見の仕方に近しい事例を一つご紹介します。
千葉市はインバウンド観光集客政策をとった際に、対象をムスリムに絞って突き進みました。2014年の頃です。ムスリム(イスラム教を信じる人たち)は、宗教的戒律において、食べてはいけないもの(豚、お酒など)以外にも、聖書であるコーランにおいてタブーとされていることがあります。その代表例が、コーランの24章31節にて、女性に対して「美しいところは人に見せぬように」という記述部分から、信者に解釈されて一般的になっている「女性は頭に布をかぶることで、髪を男性の目にさらさないようにする」ことです。

 千葉市の観光部署の課長をしていた時に、市内大学で学んでいるムスリムの女子留学生と話をしていて「日本では髪を切れないのです。男性の美容師さんに髪を見せることはできないし、洗髪剤に豚の成分が入っているものが大半だからです」と知りました。彼女の場合、年に一度母国に里帰りする時に髪を切っているとのことでした。この不自由さを解消してこそ、ムスリムを満足させられるはずと考えて、その後、千葉市は「ムスリムフレンドリーシティ」を掲げて、「食のみならず、ムスリムが髪も切れるようにしよう」という動きを市内の美容業の方々と推し進めました。この時に実は「インサイト」に触れていたのです。それは、「髪」を見せられないからこそ、「髪型にはことさらに関心があるのでは」というインサイトです。イスラム教徒が多いマレーシアに渡り、現地での女性たちの「髪について」考えていることをインタビューしていく中で、実は日本の美容技術のひとつである「似合わせ」が売りになるのではと考えました。「似合わせ」とは、「その人の顔の輪郭や雰囲気にあわせて施術する」という、私達日本人なら「あたりまえ」だと思っている技術なのですが、外国ではあまり見られないのでした。日本の美容技術の高さの象徴ともいえます。つまり、コーランの教えを守り、髪を人目にさらさないモスリムの女性だからこそ、一度その布(ヒジャブ)をとって一人になった時にはことのほか素敵な髪について考えを巡らしている、髪の美しさを求める気持ちは人一倍強いのでは、というインサイトからひもとかれた仮説でした。ポイントは「髪を見せられない」事実に単に則ったのではなく「それによって感じているであろうムスリム女性たちのすてきな髪型に対しての憧れの強さ」にフォーカスした点です。

千葉市はその後、「ムスリム向けの似合わせを体験できる美容室作り~ムスリムビューティー作戦」を千葉市美容事業協同組合の安保祐司会長に提案し、当時日本で唯一ムスリム向けの美容院だった渋谷区恵比寿の「ソルビスカ」さんを訪れ、助言をいただき、体制作りを素早く整え、ムスリムも使える美容液や、女性美容師さんが個室で施術してくれる空間の創出などを迅速に進め2015年には市内11の美容院で受入れ体制を整えたのでした。

ムスリムも安心して食べられるレストラン支援も、他の市町村よりいち早く着手していた千葉市ですが、このムスリムビューティーは、他県に例はありませんでした。市は「ムスリム受入れの二枚看板」として広くリリースした結果、ムスリムの「不満」の「不」を解消して満足感を施す施策として認められたのか、プロジェクト開始後2年余り後の2017年の第一回「モスリムフレンドリー県ランキング」(MastercardとCrescent Ratingの共同調査)では、千葉市が牽引する形(だと自負しています)で千葉県は東京、大阪、北海道に続いていきなり第4位を記録する結果になりました。
以上、ちょっと長くなってしまいましたが、インサイトに迫ることの重要性を掘り下げてご説明いたしました。

対象の欲望のありかを自分の身に置き換えて想像し課題解決をはかる具体策に結びつける、そういうインサイトの手法をぜひ採り入れて、観光企画において新たな価値を創出していきたいものですね。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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