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【エッセイ】ミーと言えばハー

あれは2003年8月、8歳のとき。
家族で「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」を観に行きました。確か吉祥寺の映画館だった記憶。
それから今まで、生涯ベスト映画は変わっていません。
あのテーマ曲が流れて、青島刑事が緑のコートを揺らしながらお台場の街を疾走する。
僕にとってあれは「鍵刺激」みたいなもので、前後の脈絡が無くともあのシーンだけで無条件に興奮できてしまいます。

それから15年ほど時が経った、ある日。
たまたまラジオを聴いていると、RHYMESTERの宇多丸さんが自身のレギュラー番組で、公開中の映画を批評する「シネマハスラー」というコーナーをやっていました(現「ムービーウォッチメン」)。
そこで宇多丸さんは、あろうことかこの「踊る2」を「生涯ワースト映画」と評していたのです。
僕が信じて疑わなかった生涯ベスト映画を、ワーストだと…?
心中穏やかでなくなった僕は、「踊る2」のYahoo!映画レビュー欄を見に行きました。
同志の存在を視認するためです。
…するとまあ、宇多丸さんと同じ意見の多いこと多いこと!
僕はなんだか人生ごと否定された気分になって、昔誕生日に買ってもらった「踊る2」のDVDをブックオフに売ってしまいました。

確かによくよく観てみれば、あの映画には多くの「アラ」があるのも確かです。
宇多丸さんは踊るシリーズの特徴を「事件が勝手に解決していく」と談じていました。
それはまあ、…おっしゃる通り。
青島刑事がレインボーブリッジを訪れると、たまたま犯人たちがそこを通り過ぎたり。
エレベーターが開くと犯人がたまたま降りてきたり。
ただ「踊る」に関しては、犯人が誰かやどんな手口かが焦点ではなく、忙殺されながらも奔走する湾岸署の群像劇がメインなので、「それを言っちゃあおしめぇよ」と言いたい気持ちもあるのですが…。

これは語弊があるかもしれませんが、
「踊る」に代表されるテレビ局主導で製作される映画は、予告スポットをテレビでバンバン出せる。
極論を言えば「予告が面白ければ客が入る」わけです。
僕が魅了されたグルーヴ感溢れる映像の数々は、予告でも数多く確認できるし、
あのスクリーンと大音量でそのシーンが観られるというお得感で満足できる。
僕は昔からこういったある種の「お祭り映画」が大好きだったので、「純映画」(定義は曖昧ですが)が好きな人たちとは映画の楽しみ方がそもそも違うのかもしれません。
予告の前情報なく観る映画が面白いか否か、その基準は間違いなく脚本にあると言えるでしょう。
そういう目の肥えた人たちから見れば、そりゃあの作りには口を出したくなるってなわけです
(もちろんお祭り映画でも脚本の傑作はたくさんあるし、その究極形がハリウッド映画と言えるのですが)。

そしてもうひとつ、そもそもテレビドラマと映画には決定的な違いがあります。
ドラマのほとんどは「ながら見」されています。
料理をしながら、ご飯を食べながら、スマホを観ながら…。
そのためドラマは、シーンごとのインパクトを重視した作りがされると言われています。
たまたま観たシーンが面白い、その数珠つなぎで視聴者を最後まで引っ張る。
対して映画は、一度劇場に入れば最高の視聴環境が整っている。
つまり多少冗長で退屈なシーンがあっても、客が物理的に離れることはない。
この定義を「お祭り映画」と「純映画」に当てはめると、一目瞭然ですね。
ドラマの作りを踏襲して映画を作るから、予告が面白くなるわけです。そして客が入る。

長くなりましたが、
僕は自分が「お祭り映画育ち」であることに多少のコンプレックスを感じています。
なぜなら「予告に踊らされて映画を観に行ってます」と自白しているに等しいからです。
ヒップホップ界では、売れるためにポップス寄りの音楽をやることを「セルアウト」と呼び、「ポップスに魂を売った」と揶揄されます。
僕はまさにセルアウトで育ったミーハーです。
しかし、ここからが僕の言い訳。
僕は、魂を売ってでも大衆を楽しませるためサービス精神の限りを尽くしたものに、とてつもないロマンを感じます。
魂を売ることの大変さ。
自我に偏らず、大衆と調和を取りながら創作し、ヒットを出すことの難しさ。
脚本界の末端構成員である僕も、その苦悩は容易に想像できるし、想像を絶するものがあります。
描きたいものと観たいもの。
その是正を繰り返しながら作られたもの。
そんな崇高なものこそ、祭られてしかるべきだと思うのです。

その後、宇多丸さんの「シネマハスラー」いろんな回を聴いていますが、とてっっつもなく勉強になります。自分も観た映画の回はもれなく聴いてしまったぐらい。
宇多丸さんは決して「お祭り映画」を否定されているわけではなく、あくまで物語としての成立、テーマの着地など、あらゆる観点から考察して評論されています。もちろんラッパーとしてもめっちゃビガップしてます。
あと僕と誕生日が一緒です。

(完)

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