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科学は、語り継ぎたいエンターテイメント

本書のように、かなり幅広いテーマを扱う内容の場合、なかなかサクッとまとめきれません。そこで本稿では、今日の僕たちでさえ、子供の頃に抱いた素朴な疑問に焦点を当てたいと思います。

「火」とは何か。

人類が火を使っているとしても、それに対する解を導くのは容易なことではありません。古代ギリシアの人々はその問いに挑みました。メラメラと燃える炎、そのものは目に見えています。しかし、固定した形状があるようには見えず、炎を切り取って保管できるわけでもありません。では、火とは何なのか。その正体は、燃焼反応すなわち光を放つ急激な化学反応でした。また熱をもとにした気化現象やモノが焼失する分解現象もあって、そこにさらに、高温になった気体が上昇する運動も加わります。炎が上に向かって伸びたり、揺らいだりしていく理由がそこにあるのです。古代人にはそんな複雑なことは分からなかったでしょう。彼らは燃える前と、燃えた後の対象の変化に着目し、何かが抜けたと結論づけました。それが「フロギストン」です。つまり、もともと「フロギストン」が存在し、燃焼行為を通してそれが出てくるのだと理解しました。実はこの考え方が、後に、空気中の酸素を発見することになります。

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「空気」とは何か。

では、その空気について。長い間、空気と気体とは同義でした。見えないものに対する科学は非常に厄介です。1772年、酸素、そして窒素が発見されました。それら気体をマクロで研究しているのが、気象学者です。その一人(ドルトン氏)が原子論を展開できたのも自然の流れだったのかもしれません。かつての古代ギリシアに由来した原子論が、ここに復活してきたのです。物質は原子からできている、そう考えた時の数々の矛盾は、「分子説」で克服しました。ラボアジェは『化学原論』を著し、ここに錬金術ブームを脱した新しい化学の世界を打ち立てました。それから19世紀に入ると、猛烈な勢いで明らかにされてくる元素の数々。その原動力になったのは「電気分解」でした。後には、光分法も登場。光のスペクトルで新元素の発見ラッシュをもたらしました。19世紀後半、ついに一人の天才がロシアに現れます。あのメンデレーエフ(下記画像はGoogleが記念日に用いた絵)です。様々な元素を並べ、そこに周期性があることを見抜きました。彼が圧巻だったのは、周期表にいくつもの空白を設け、未発見の元素を予言したことです。これは理論物理が先行し、あらたな天体現象をもって証明したのと同じです。科学のすざまじい力を目の当たりにさせてくれました。

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「時間」とは何か。

この問いには、その理論物理の話で答えてみましょう。大半の人は時間に関心をもつことありません。ところが科学者はそこに疑問を持ちました。時間の進み方は人(観測者の立場)によって異なる、と。同じ「1分」が、人によって異なってしまうのです。そこに重力を加味すると、空間までが歪む。つまり彼は、時空間が絶対的基準でない(相対性理論)ことを示したのです。その科学者とはアインシュタインです。彼の偉大さは、わずか数行では表現しきれませんが、たとえば2019年、彼の予言のひとつ、ブラックホール(銀河M87中心部にて撮影)の存在が証明されています。100年越しの大理論です。また彼の考え出した公式は、やがて「ビッグバン」というこの世の成り立ちを説明する理論へと応用されました。ビッグバンによって、この世に時間が生まれ、この宇宙は膨張を続けていることが分かったのです。もっと踏み込みましょう。時空間が変化してしまう(相対的なものだ)と分かったのは、光の速さを不変にしたからです。「光のスピードは誰から見ても変わらない」というひとつの事実が、僕たちの「時間」観をガラッと変えました。1秒で地球7周半進む光。月まで1.3秒で到達する光。その光が、物理学においては、宇宙が膨張していく系(変化)の物差しになったのです。実際、ビッグバン後に誕生した光は、「宇宙マイクロ波背景放射」として今日観測することもできます。ゆえに、宇宙の年齢が分かるのですり僕らが毎日体感する時間とは、異質なものなのですね。

ブラックホールの概念は、物理学者アルベルト・アインシュタイン(1879~1955年)が1915年から1916年にかけて発表した「一般相対性理論」から生まれました。それから約100年間、科学者たちは、目に見えないブラックホールの姿を、理論的検証と観測を積み上げながら、想像を膨らませて思い描いてきたのです。【“ブラックホールは存在した” アインシュタインの理論を100年かけて証明した科学者の情熱:The PAGE】

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アインシュタインの業績の中には、光を量子であると主張したものもあります。光が波であるばかりか、粒子であること(光量子仮説)を提唱しました。これが色々な研究者の議論を経て、量子力学の台頭に至ったことも見逃せません。20世紀最大の理論・量子力学。これによってGPSが正確に動き、光学・医学への応用が期待されまています。これもまた、アインシュタインとの大論争によって独り立ちしていった学問です。

「生命」とは何か。

この問いも、18~19世紀の科学者たちによって、大転換させられました。そのひとりがダーウィンです。猿から人になったという進化論が、生命の誕生ストーリーに道筋をつけました。これまで宗教界で語られていたことが、またひとつ科学者によってバッサリと否定されたのです。そして当時、ある実験が行われています。試験容器の中にスープを入れ、これを空気中の異物が入らない状況下で長時間放置したのです。結果は、いつまで経っても腐りません。その実験の概要は、NPO法人バイオ未来キッズのサイトでも説明(図を下記に引用)されています。細心の注意を払ったフラスコはいわゆる無菌状態でした。細菌が入って来ないので、腐敗には至らなかったのです。そして生命は自然発生しないことも分かりました。

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当時、微生物の存在はすでに知られていたために、この見えない生命の正体が何なのか、もっと言えば彼らは一体どこから来たのかが新しいテーマとなりました。生命そのものはタンパク質でできています。その塊がどうやって生命に化けたのか。仮説として、次のような紹介もあります。

原始地球環境を模倣した Miller の放電実験 (1953 年) により、グリシンやアラニンなどタンパク質の材料となるアミノ酸が容易に得られることが発見され、その後、多くの研究者が同様の化学進化の実験を行い、タンパク質を構成する 20 種類全てのアミノ酸や、DNA や RNA を構成する核酸塩基、糖、リボースなど、生命分子の材料は原始地球に存在し得たことが分かった。Yanagawa らは、原始地球に存在し得た数種類のアミノ酸を、海水を模倣した水溶液中で熱重合することによりマリグラヌールと名づけた細胞膜様構造ができることを発見し、さらに、アミノ酸が熱重合したタンパク質様高分子の中には、天然タンパク質と同様のらせん構造やエステラーゼ活性などの触媒機能をもつものも含まれていた。【構成的アプローチで生命の起源に迫る;土居教授・慶応大学】

「地球」とは何か。

最後に、僕たちの地球。少なくとも僕たちが見聞きできる世界は、科学者の弛まぬ奮闘があって、だんだん見えてきたものです。地球からはるか遠くの星について、色々な知見が数千年の間蓄積されてきましたが、足下のことはまったく分かっていませんでした。地球内部のことです。ずっと掘り下げていけば6000キロメートルにもなる距離ですが、人類(旧ソ連)が到達できたのはわずか10キロメートルほど。200度を超える温度と、高圧空間に阻まれたのだそうです。地球の表面を覆う薄い地殻ですら70キロメートルあるわけですから、その下のマントルやコアなどは触ることも見ることもできないようです。では、この地下で何が起こっているかを知るためにはどうするか。NHKに優良コンテンツ(高校講座:地学)があり、下記の図もそこからの引用です。もし、災害だけを考えるのであれば、地震・台風・火山などに備えるために、地殻の研究だけでいいのかもしれません。ところが、地球の温暖化とか、地球の歴史を紐解いていくためには、マントル研究の重要性が増しています。1912年に出された大陸移動説などは、僕らの「地球」観を根底から覆しました。

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上掲書を一読してもつくづく思いますが、科学の歩みは多くの方々の地道な研究に支えられた結果、多くのことを明らかにしました。それぞれの分野だけを見ても、膨大な数の書籍が存在します。科学を学ぶことは、僕にとって最も愉快なエンターテイメントであり、もっと多くの、次の世代に、バトンを渡したい人類繁栄の秘宝だと思います。

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