プレートテクトニクス

生命は地球で生まれたのか、という謎

本書で紹介されているのは、「地球軽元素進化系統樹」説です。異説と前置きされながらも、非常に面白い学説でした。そのすべてをまだ把握しきれていませんが、ここにメモだけしておこうと思います。
※冒頭画像は、本文中にもリンクのある地球史と生命の誕生を説明している動画(Youtube)からのものです。様々な説があるのですが、今回は敢えて「異説」と呼ばれるものを取り上げてみました。

人類究極の謎に挑むには、まず地球から

興味深かったのは、本書が、異説「大陸移動説」の歩みから書かれていることです。今日ではほぼ認められている学説ですが、日本では(大戦をはさんだ時期でもあったため)「異説」としての地位すらなかったようです。1930年、考案者のウェゲナーが亡くなり、1957年、彼の説は見直されることになりました。大陸が動くという奇想天外な説は、離れ離れになった大陸の凹凸が一致したり、生息していた生物も一致したりしたことから注目を浴びました。そして、地磁気や地震を測定することで、本説を裏付ける証拠となったのです。この説はのちに「プレートテクトニクス」論として、地球誕生に関わる謎のひとつを見事に解き明かしました。

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本書のテーマである生命誕生にも、このプレートテクトニクス論が関係してきます。40億年前の地球は、現在の1000倍もの隕石が宇宙から降り注いだ時代でした。それを計算すると、堆積した隕石量は一平米で200トンにもなるそうです。その中に含まれる炭素の量、また水から酸素を奪って水素を生成する金属鉄の量もかなりのものになります。これらが海洋に衝突した後には、相当の有機分子が生まれたことを示唆します。本説のハイライトはここからです。

化学の作用は、どこで生命を生んだか

海洋中の有機高分子はやがて水面に浮遊してきます。そして太陽光に分解され、窒素や水や二酸化炭素に戻ってしまいました。しかし一部の有機高分子は海中の粘土鉱物に吸着して海底に沈殿していきます。この海底地下の高圧・高温の環境下にて、有機高分子が脱水し、高分子化(=脱水重合)が進みました。この時、熱水に触れてはなりませんでした。なぜなら、逆の反応(=加水分解)が起こってしまうからです。この高分子が、水を避けながら、地下深くで進化を続けた結果、小胞を形成したようです。その小胞の中に退避できた高分子のみ、「サバイバル」できたのだと思われます。2006年、約30億年前の地層で見つかったひとつの化石らしき組織。ところが丹念な分析の結果、無機起源であることが判明しました。顕微鏡写真では、分裂しかかっている陰影や細胞壁が炭化したように見える部分もあったそうですが、これは化石(生物)ではなく、単なる小胞だろうとの判断です。その小胞が徐々に有機高分子に置き換わったとしたら、地中から熱水環境に飛び出したとしても、内側の有機高分子を分解されずにすみます。これが実は生命の原型だと言います。

生命誕生は、海ではなく地下?

筆者の学説は「生命の地下発生説」です。地下深部を、有機高分子を含んだ小胞がどのように動いたのかは分かりませんが、移動する過程で、一定のタイプが分解されずに残ったそうです。さらに小胞同士が融合することもあったでしょう。こうして生命の源になる初期高分子が小胞の中で大きくなりました。この高分子が、どう巨大化し遺伝子に化けたのか、いまだ謎に包まれたままです。巨大化して分裂する、それはまるで遺伝子のない生物が誕生したかのようです。その分裂過程で、遺伝子複製という効率的な仕組みが備わり、生命誕生へとつながりました。肝心なところがいまだもって不明ですが、本書では、生命が誕生した理由をそのように説明しています。

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集まり、散らかる。その営みが生命

繰り返しになりますが、地表に近いところ(地下深部)に集まった軽い元素(H, N, O, C)が脱水化し、様々に結合した。それが有機高分子です。やがて互いに融合を繰り返す中で、適者生存の原理のごとく、特定のタイプのみが残りました。そして筆者は、これらを物理法則でもあると言い切ります。エントロピーの増大、すなわち秩序をもった状態から、バラバラの状態になること(整理された部屋が乱れたり、秩序だったものが崩壊したりと、時間の推移とともに変化していく法則)だったのです。原始生命体となる小胞は、一度は秩序化(重合)し、結果的には排出(分裂)することを繰り返します。これがエントロピー増大にあたるようです。有機高分子が地中にいる間は、高圧環境にさらされ、巨大化と分裂が延々と続きます。おそらく、そのサイクルの中で、みずからが再生産するようになったのではないでしょうか。そんな大胆なシナリオを唱えているのが、筆者です。

逆に言えば、ただアミノ酸があるだけでは、生命の誕生とはなりません。生命は地球で誕生した。それが異説であっても、主流であっても、生命についての多くの考察を僕たちに与えてくれました。



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