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ぬか漬けは生物多様性の象徴だった

ぬか漬けをはじめる

数年前の冬クリスマス会という名目の集いに参加しました。同じテーブルになった人同士は初対面だけど何か共通点があるはずですと言われて話してみると、1週間前に佐藤初女さんのぬか床を分けてもらうワークショップに行ってきたという人がいました。
そんなのがあるんだとその場にいたもう一人の人と行ってみようということになり、次の機会に申し込み神奈川県の藤野という場所まで出かけていきました。
教えて下さった方は初女さんからぬか床を分けてもらったことがきっかけとなり、ワークショップで野菜や厚揚げゆでたキノコなど様々なぬか漬けを試食・作り方を教えてくれました。
冷蔵庫で保管して続ける方法、手入れの仕方や、ぬか床の状態が悪くなる原因や菌の種類と対処法などはじめるきっかけになりました。
せっかくだから母のぬか床も分けてもらってはじめました。

九州の食文化

北九州の小倉には代々100年続いているぬか床があるそうです。
リリー・フランキーさんは小倉の出身で母親との半生を綴った小説「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」の中でお母さんが毎日大事にぬか床を手入れしていることや、朝食に美味しく食べられるように逆算して夜中にぬか床になすを入れることが書いてあって感心したのでした。

九州には“ぬか炊き”といいう、魚や肉をぬか床と煮る料理があります。味噌漬けみたいな感じでご飯のおかずによく合います。ぬか炊きを出すお店に行ったとき、山椒の時期で一年分の実山椒を仕込んでいて厨房からよい香りがしていました。
ぬか床をはじめてからは、実山椒が出始めると1年分を仕込むようになりました。

初女さんのぬか床

初女さんがお亡くなりになって、田口ランディさんが初女さんとのことをご本にしてお話をされる機会がありました。
ランデイさんが預かった遺言「ランディさん、ぬか床を浸けてみたんです。あぁこれが生物多様性だってわかった。私のぬか床見て下さい。フルーティーな香りがする。以上」とおっしゃったこと。

初女さんはご自身が出演された映画ガイアシンフォニー第二番で「多様なものが多様なままに共に生きる、それは生命の摂理であり宇宙摂理である」という言葉に込められた思いがいなかるものだったのかという問いを投げ、それは生物多様性をあらわしていることを伝えた映画だったと結論づけていました。

ぬか床、生物多様性、宇宙の摂理・・・それらが受け継がれていく。最初にイスキアに伺ったときにも、初女さんは生物多様性のことを話されていました。

ぬか床のある生活

ぬか床は手入れをしながら使い続け、かき混ぜるタイミング、香り、時々ぬかを足して水分量を調節、味、塩分を自分なりに工夫してつかんでいきます。
ぬか床の調子がいいと自分も調子がいいとか不思議なバランスです。
数年前母の具合が悪くなりぬか床を処分してほしいと言ったときには驚きました。
前に入院したときは、上に塩を乗せて塩蓋にして保管していたのに、大切にしているものをもう続けていかれないとなると言うので泣く泣く捨てました。
人の命が終わるとき、その人のぬか床も終わる。だけど代々続いていけば、それは生きた伝統として残ることを教わりました。
私のところのぬか床で初女さんと母は続いているという感覚です。

母が亡くなってから3年後収納庫を片付けているときに、ぬか床として使っていた甕の中に梅酒が入って出てきました。
ぬか床をやめてすぐに梅酒を漬けていたようです。
家中の片付けでひどく疲れていたせいもあって、見つけた時には泣きました。
ぬか漬けが美味しくできると嬉しい理由がわかりつつあります。


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