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アマガエルセラピー 19

空飛ぶカエル

 ベランダの欄干で休むカエルにカメラを不用意に近づけ、天敵から逃げる本能を刺激してしまい、4階からぴょーんと空に舞う姿を何度か目撃しています。

 初めてやらかしてしまったとき、気が動転した私は無事を祈りながら非常階段を速攻で駆け下りました。駐車場のアスファルトに張りつくようにじっとしているのを見つけ、恐る恐るビニール袋をかぶせて捕獲。元いた欄干に離すと、なんともない様子でかしこまり、胸をなでおろしたものです。

 それこそヒトが落ちたら生死に関わる高さをものともせず、見事に着地を決めるところは、さすが樹上で活動するツリーフロッグだけのことはあります。ちっちゃなカエルにとってはスカイツリーのてっぺんから飛び降りるようなものなのに、すごい運動能力です。おかげで何度か同じような失敗をしでかしましたが、大事に至らず助かっています。アマガエルは空を飛べるのです。

 地上まで飛んだ場合は着地の余韻に浸っているところを、さっと捕まえてくれば問題ないのはわかりました。頭を悩ませるのが、階下のベランダに降りてしまったときです。自力で戻ってきた子もいましたが、確率的には相当低く、普通そのままお別れとなります。かわいがっていた子の場合、そうそう簡単にあきらめきれません。

 実は一度だけ、妻には絶対内緒の話ですが、一人暮らしのおばあさんの部屋のピンポンを鳴らしたことがあります。オランダ土産の菓子折りをさっと差し出し、「すみません。上の階の者ですが、うちのカエルが間違って落ちてしまい連れて帰りたいので、すぐに済みますからベランダに入れてもらえませんか。お願いします」と、平身低頭で頼み込んだのです。

 ところが翌朝その子の姿が見当たらず、苦労は水疱に帰すことに。それからは潔くあきらめることにしました。

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