バーコード(2)

 さて、我が町の西友では、店が比較的空いている時間帯には地下食料品売り場のレジは閉まっていた。そして、セルフが導入された今は、完全になくなってしまった。

 こうして客は買い物かごを地階のレジまで持って行くのだが、それなのに長蛇の列ができていたのは、セルフでは心もとない人達がたくさん並んでしまったせいである。

 巣鴨のお地蔵さんのあるJR巣鴨駅でも、自動改札導入直後にはおばあちゃん達が混乱して大変なことになっていたのを私は覚えている。祖父母らと巣鴨に行くことはそれまでもよくあったから、想像するに余りあった。余談だが、駅近くのマクドナルドは、一人で背中を丸めてハンバーグをパクついているおばあちゃんばかりだった。祖母はあごでしゃくって私にそれを見せながら、唇をきゅっと引いて顔をこわばらせ、首を振っていた。友達や家族と連れ立ってきてる人ばかりではないのである。私が祖父母と入ったうどん屋の亭主も「むかしはこういう街じゃなかったんですけどねえ…」とぼやいていたが、おばあちゃんの原宿ともてはやされても、誰もがおかしいと感じるところがないわけではない町ではあるだろう。

 このコロナでは、小池都知事が三密を避けるよう呼びかけてからも、万病を癒す“とげぬき地蔵”の参拝客はかえって増えたくらいで、結局は寺側が参拝客を受けつけず、商店街も閉める、という対策を講じるしかなかったようだ。あれはやはり、賑わいに惹かれて集まる人達だったのだろう。その後、また小池知事が「お買い物は三日に一度に…」と呼びかけるに至ったが、実際、その西友もいつもより人が入っていたのではないか。

 なお、東京駅の新幹線乗り場の自動改札では、今でも、乗り継ぎのチケットをとらない人が多く、係員がつきっきりになっている。スーパーのセルフレジも、しばらくはスタッフが何人かつくことにはなるしかないだろう。

 それでも万引きは増えそうだなあ、と思う。実は別の食料品店でも「個別包装を破って会計にお持ちになるのは衛生上おやめ下さい」という控えめな張り紙があったのを見たばかりだ。その時は、ああ、ゴミ袋有料だし、パッケージってかさばるもんね、と思っただけなのだが、バーコードはシールではなくパッケージに印刷されていることが多い。そして、そこには警報の鳴る万引き防止装置があった。

 セルフ導入は、「以前からお客さまからの要望が多かった」と西友側では説明しているが、使う側の当面の戸惑いのみならず、コロナ自粛期間中のスーパーでもきびきびと働いていたおばちゃん達はどうしただろう、という心配もある。たどたどしい日本語で「アリガトゴザイマシタ」と一生懸命働いていた若い外国人留学生とか、レジ打ちによくあるタイプとは思えない、どうにも世慣れない感じの女性がマスクごしにもわかる緊張した面持でレジ打ちしていたのとか…。自粛期間中、西友は「開店直後と夕方五時台は避けてゆっくりとお買い物」を呼びかけていたし、だからその時間帯にもレジ打ちはいたのだ。


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