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ゲリラゲリ

オキュパイド、オキュパイド

いまいましいオキュパイドの文字に冷たい雫が額をナイフのように撫でる。二度あることは三度ある。最後の扉に手をかけるが、

オキュパイド

という文字が視界に入ると、すぐさまC3出口に向かって走り出した。3つめ目の曲がり角だ。

7:25

ディスプレイが視界に入る。右に目をやると連中が向こうでゴゾゴゾ動き回っていたのが波のように押し寄せてくる。それは己の肉体と連動し、ダムが決壊するイメージが脳内でチラつく。

うっ

目の前を遮る存在によろめき、左足にグッと力を入れる。ここで死ぬわけには行かないのだ。脳内でシミュレーションする。100m先キオスクを左折し、すぐさま右へ切り返す。そのままC3出口横のスポットに身を投げ入れる。

、、、いや待てよ。キオスクを右折し、エレベーター、違う、エスカレータを駆け上がり、ファストフード店のスポットで用件を済ませた方が良いのではないか。俺に残された時間はあと僅か。

「あばよ、民よ!」大声でわめき散らしながら俺は左折しようと力んだ右足を捻る。慣性の法則が、腹を劈くのを堪える。彼の目には額に滴る雫が紅に染まっていくのが見えた。

全てかスローモーションに見える。この症状はよく知っている。秒読みに入っているのだ。

呪文を使え!

俺の分身が囁く。

ゲリラゲリ
ゲリゲリゲリラ
ゲリラゲリ

俺は呪文を唱え、ダムが決壊する時間を刹那止めた。エクトプラズムの肉体が精神を引き裂こうとする、だが俺の勝ちだ。俺は個室に入っていた。決壊を極限まで抑え、ペインとスリルの絶頂で、自分の意思で成仏する快感は俺の日課となっていた。

しかし、そんな日常が変わるとは思いもしなかった。

人類の100%が不治の病「ゲリラゲリ」を患い、その50%が俺と同じスリルを共有することになるとは。

【続く】


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