教科書に載せたい程の名曲「やっと家に帰れてとてもうれしい」



昨年末くらいに映画を観ていたらちょっと気になる曲と出会いまして、いろいろ調べていくうちに上記の動画を発見しました。ロシアの曲で、タイトルは「やっと家に帰れてとてもうれしい」。歌っているのはエドゥアルト・ヒーリさん。バリトン歌手だそうです。1976年の映像。

Wikipediaで彼の情報を見てみるとネット界では2009年くらいにこの動画が流行ったみたいですが全然知らなかった。。。
乗り遅れたも何も10年遅れてしまいましたが(とは言ってもネットで流行るまでにそれ以上かかってますが)、聴いていくうちにこれは音楽(作曲)の教科書に載せてもいいんじゃないかってくらい良く出来た曲なので、ちょっと解説してみようと思います。
*この動画の曲が原曲通りなのか分からないのですが、解説はこの動画のみを参考にします。

概要

まず一聴して分かるのは、晴れやかな曲調、心地よい豊かな低音の男声、そして独特のスキャット。タイトル通りのイメージを思い描かせてくれ、楽しい晴れやかな気持ちにさせてくれますね:)

曲の構成に目を向けると、まずメロディはAメロとBメロの2つ。それぞれが繰り返してA,A',B,B'となり、基本的にこれらを一つのメロディラインとして繰り返します。
その数5回。。。普通の歌で言うと5番まであることになります。。。!
歌詞のないメロディを5回歌うと、普通なら聴衆は聞き飽きてしまうかも知れません。この回数を聴衆に飽きさせず5番まで聴いてもらうためには何かしらのアイディアが必要です。そこでこの曲ではありとあらゆる手段が盛り込まれています(独特な"Trololo"スキャットもそうですが)。
ではイントロから順にみていきましょう。

イントロ~提示部

イントロの部分のゆったりとしたメロディ、それに乗せて歌が入ってきます。動画の15秒にイントロのアレンジがあり、この作りがイントロの揺れ(レードーレード)に比べて大きな揺れ(ドーレーミーレ)になっており、印象として「帰路につく実感」がちょっと大きくなった様なイメージを出すことで少しだけ盛り上がりを見せます。
メロディの提示部が〜41秒くらいですが、33秒のメロディ繰り返しから徐々に楽器が増えていきます。特にストリングスの緩急が鮮やかです。
44秒でBメロを少し変えて歌っていますが、この「少し変える」ことで単調な繰り返しを避けています。この手法はこの後も何度も出てきますよ:)

インパクトのある展開

そして51秒。ここで半音上に転調し、さらに今まで4拍で来ていた所に2拍を差し込む事によってインパクトを与えます。

音符の長さは適当ですがこんな感じ。
画像1

実はこの手法はよくあるんですが、こういう時には最後の音を長めに取って4拍の流れを優先させるか、バッサリ切ってさっさと次のメロディに移行させるという選択があります。今回のバッサリ切るパターンはスッキリしますが同時に2拍になりここだけ目立っちゃうことにもなるので、ケースバイケースで使い分けます。
この曲はそれをインパクトとして聴衆に与え、更に半音上に転調させることで気分を高めます。ブラスのアクセントも効果的ですね。このことで聴衆は驚き、飽きが来ないどころかワクワクしだします。

小さな発見

続いて、メロディラインはロングトーンで倍の長さに伸び、その間に伴奏が鉄琴などを使って少しミステリアスな雰囲気を加えます。1分1秒のAメロ後半で美しいストリングスがゆったりした伴奏を行います。ミステリアスな雰囲気とその答えという対比があるんじゃないかな。
物語的にいうと、普段の風景の中に珍しい物を見つけた時の嬉しさを描いている様な感じですね。例えば「森の中を通っていたら物音がする。何の音かと思ったら鹿がいた」みたいな、そんなちょっとした嬉しい驚きの印象を受けます。

はっちゃける

そして一通り歌い終わったら更に半音上に転調です。今度はファルセット(裏声)のロングトーンというアレンジ。地元に到着したんでしょうかね:)
ファルセット=一番高い声の直後に一番低い声で歌うというコントラストもまた面白い。この後もパッセージの早いアレンジを加え、歌としては一番はっちゃけてますw。

肩透かし

1分54秒。また半音上に転調。。。と思わせておいて笑い声に見立てるというユニークな展開。通りで知り合いと出会ったのかも。
1分59秒からの伴奏はホーンが下降していますが、これも計算。

2分4秒。笑い声で肩透かしを喰らいましたが、ここで期待させた分の半音上に転調をして盛大な盛り上がりを迎えます。ホーンの下降はジャンプするための屈み込みだったんですね:)
ここまでくればメロディに変化は要りません。というか再現部なので最後にアレンジのないメロディを歌って聴衆と一体になります。伴奏の盛り上がりと比較的高い調で歌うことで「もうすぐ家につく!」という感じも表現できています。

家についた

2分33秒。ここで締めくくりとして最初の二音半下のハ長調に戻ります。最後に家のドアを開けながら手を振ってくれてる感じでしょうか。こうすることで高揚した気分をクールダウンさせ、聴衆が気持ちよく聞き終わる様に配慮しています。

最後の最後にロングトーンで曲の終わりまで歌い続けるのも味がありますね。

ということで、自分が分かる範囲でこの曲にあるアイディアを書き出してみました。
中にはもちろん自然に作ってもこうなるだろう箇所もありますが、ここまで配慮、考えて作っているという点は学び甲斐があるんじゃないかと思います:)

この曲との出会い

冒頭に書いたとおり、つい最近までこの曲を知りませんでした。そして先日(2018年末くらい)にスティーブン・キング原作の映画「セル」でこの曲がBGMではなく映画の要素として使われてまして、この曲自体もそうですがその使い方が独特だったのでなんとなく耳に付きましたが、探すまではしませんでした。
その後(2019年初頭くらい)観た映画「パシフィック・リム:アップライジング」でも使われていて、こんな短期間に2回も耳にするとはと思いネットで探した次第です。そして聴いてみたら素晴らしい作品だった、と。

実はロシアについては結構暗い印象ばかりを持っていたので、こんな晴れやかで楽しい曲が1976年には存在していたのにびっくりしました。

世の中にはこんな素敵な曲がまだまだ埋もれているんでしょうね:)

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