見出し画像

アードベッグ蒸溜所/ビル・ラムズデン博士の発想力《アードベッグ③》

■アードベッグのお話の3話目です!

前回までは、

▽アードベッグは超臭いのに、超人気!

▽でも、1980年~1997年は操業していなかった期間も長く、操業したとしても少量を細々と生産していた

▽1997年のグレンモーレンジィ社による買収。その後のモヘ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン社(LVMH社)によるグレンモーレンジィ社の買収が、今のアードベッグ人気へと繋がっている。

▽その人気復活の理由は、
①    つくり手
②    ブランディング
だとチェーリー的には思う。

▽前回は、その人気復活の理由の①つくり手について、ビル・ラムズデン博士の「カスク・フィニッシュ」についてご紹介しました。

今回は、ラムズデン博士の止まらない発想力による商品を、いくつかご紹介したいと思います。


■ラムズデン博士の発想力:麦芽の乾燥

LVMH社の所有するスコッチ蒸溜所「グレンモーレンジィ」「アードベッグ」の蒸溜・製造最高責任者のビル・ラムズデン博士。

グレンモーレンジィの限定品「フォレスト」が発売された時に、記事化してご紹介していますが、今一度、その発想力の豊かさをお伝えしたいと思います!

まったく新しい着眼点 限定品:グレンモーレンジィ・フォレスト|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

◇グレンモーレンジィ・フォレスト

森のボタニカル植物を加えて焚き、乾燥させた大麦から造られるウイスキーです。「森の物語」と称し、青々とした、芳しいハーブのようなアロマを持っています。

下記のBARRELのHPから引用

新作「グレンモーレンジィ フォレスト」が2月15日に発売/モーレンジファンは必飲! | ウイスキーを好きになるメディア|Barrel-バレル- (barrel365.com)

モルトウイスキーの原料である大麦の産地や、品種に注目する人は多いです。

そして、昔ながらの製麦方法(発芽工程)であるフロア・モルティングも注目されています。

ただ、大麦から麦芽をつくる製麦工程の乾燥(煎燥)の工程で、ピートでなく、森のボタニカルを用いて乾燥させるなんで発想をもつ人はなかなかいないと思います。

ラムズデン博士の発想の柔軟さ、ウイスキーの歴史に関する深い知識が、垣間見られる商品と言えるでしょう。


■ラムズデン博士の発想力:野生酵母

ラムズデン博士の発想の柔軟さは、こちらの限定品からも読み取れます。

◇グレンモーレンジィ・アルタ

グレンモーレンジィ社が所有する大麦畑から発見された新種の野生酵母を発酵の工程で使用。

グレンモーレンジィ アルタ | GLENMORANGIE ALLTA (mhdkk.com)

野生酵母を使用!

ウイスキーづくりでは基本的には、ディスティラリー酵母というウイスキー専用酵母を使うことがほとんどです。

しかし昔は、どのスコッチ蒸溜所もエールビールをつくる際のエール酵母を使っていたので、ウイスキーづくりに敢えて昔ながらのエール酵母を使い、エール酵母ならではの香味を原酒に反映させる蒸溜所もあります。

そして、今の日本のクラフト蒸溜所では、元々日本酒や焼酎、ビールなどをつくっているケースも多く、そういう時には日本酒酵母・焼酎酵母・ビール酵母を、ウイスキーづくりに応用する場合があります。

ただ、どんなお酒も一番古い時代には野生酵母を使っていたはずです。

その野生酵母を使用するというのは原点回帰ではあるのですが、さすがラムズデン博士の発想と言えるでしょう。

ちなみに、日本のクラフトブルワリー(ビール醸造所)にも、有名な酵母マニアな方がいて、野生酵母でビールづくりをしています。

伊勢角屋麦酒の鈴木社長、その人です!

伊勢神宮で有名な伊勢の杜で採取した酵母で、ビールづくりをしている人気のクラフトビールです。

伊勢角屋麦酒の秘密・発酵の原点 酵母 (biyagura.jp)

『発酵野郎!―世界一のビールを野生酵母でつくる―』 鈴木成宗 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)


■ラムズデン博士の発想力:アードベッグ蒸溜所の設備故障からの~

今までラムズデン博士のグレンモーレンジィでのチャレンジを紹介してきましたが、アードベッグでも色々な挑戦をしています。

その中でも、私が「こりゃ凄い!」と感じたのが、「アードベッグ ファーミュテーション」です。


◇アードベッグ ファーミュテーション 誕生秘話

LVMH社がアードベッグ蒸溜所を買収した後の2007年11月。

ボイラーの故障でポットスチルが使えなくなり、発酵液(ホップの入っていないビールのようなもの)が蒸溜できなくなりました。

アードベッグの発酵時間は通常72時間(3日間)なんだそうですが、結果的に3週間も放置されることになったそうです。

このボイラー故障の連絡を受けたラムズデン博士の指示が、

「発酵槽のフタを開け放て! 
窓も開け放て!!」

だったそうです。

どういうことかというと、フタや窓を開け放つことでアードベッグ蒸溜所の周辺に住まう、いつもは発酵液には入れない「色々な野生の菌」を発酵液の中に取り込み、働かせたのです!

普通の考えでは、通常3日のところ3週間も放置したら「この発酵液はもう使えないな」と廃棄するでしょう。

それを敢えて、

良いチャンスだから(失敗しても良いから)
面白いチャレンジをしーちゃおっ!

と、速攻で逆転の発想が閃き、それをすぐに行動に移す点が凄いです。

で、そのチャレンジは無事に成功!

最長の発酵時間をかけ、酵母だけでなく乳酸菌をはじめ様々な菌が活動しまくった特別なアードベッグが限定品として発売となりました。

それが、アードベッグ ファーミュテーション(発酵)です!

アードベッグ史上最長の発酵時間『アードベッグ ファーミュテーション』がリリース! | Whisky Laboratory

こんな発想力と行動力のある生産部門トップ=ビル・ラムズデン博士が、品質面からアードベッグ蒸溜所の人気を下支えしていることは、間違いなさそうですね。


■次回は

今までアードベッグ人気を支える「つくり手」についてご紹介して来ました。

次回は人気を支えるもう一つの要素=「ブランディング」についてご紹介したいと思います!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?