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大好きなビールに出会えるまで。

 シルバーウィークとまではいかなかったけれど、少し長めのお休みがあると、じっくり本に向き合える。そんな時間を使って、ようやくこの本を読み切ることができました。ボリュームとしては久々にしっかり読んだように感じます。

 もし、好きなお酒は何かと聞かれたら、間違いなくビールを挙げます。出てきたビールは何でも飲みますが、もし選べるのなら、個人的にはキリンを選びます。普段は一番搾りを飲みますが、たまに出会えると、緑色のきれいなビンに入った、ハートランドを選びます。他にもいろいろなビールがある中で、独特のフォルムと、飲み口のビール。そんなビールが生まれるまでに、キリンの内部で何があったのか、そんなことに今まで気をとめたことはありませんでしたが、この本の中で語られるエピソードに凝縮されていました。

 個人的なハートランドとの出会いは、20代前半の頃。ちょっと大きな酒屋さんで珍しそうなお酒を探していた時に、引き寄せられたのが、緑色のラベルのないビン。買って帰って1杯飲んでから、虜になってしまい、しばらくはハートランドばかりを買っていた記憶があります。

 申し訳ありませんが、今まで、前田仁さんという、素晴らしいマーケッターが、キリンの中にいらっしゃったことは知りませんでした。ハートランド、一番搾り、淡麗、氷結。どれも、同じジャンルの中で並んでいれば、選ぶ商品ばかり。その商品にほとんど関わっていらっしゃった方。常に市場や消費者のことをみながら、『半歩先』を走り続け、売れていても常にその先を予測しながら準備をする。しかも世間の動きだけでなく、大きな組織ならではの、内部の調整やパワーバランスをかいくぐって、世の中に商品を届けていく姿。かかわった人を魅了し、部下から慕われるカッコいい上司像そのもののように感じました。

 彼のように生きることは、誰もが憧れながらも、結局どこかで諦めてしまうことではないかと思います。もし、自分自身がどうかと問われても、同じようにはできず、流れに逆らえずにいるのだと思います。本来はいたってシンプルなことであったとしても、関わる人が増え、利害関係者が多ければ多い程、本来の目的からは大きくずれてきてしまう。そのうちに本来目指してきたものとは全く違うものになってしまうという構図は、大きな組織にはつきもののように思います。そんな時に、この本のページを開くと、本質が見えてくるのではないでしょうか。マーケッターがどのようなスタンスでいるべきかが、この本の中から見えてきます。多くの人を動かすためには大きなエネルギーがいる。諦めてしまいそうな気持にもなる。それでも、目の前の人の心を動かしていかない限り、絶対に前には進めません。

 もし、私自身が渦中にいれば、客観的にこれらの出来事を見ることは不可能だったと思います。それでも、客観的に見ることを忘れずに、本質を忘れずに行動してきた奇跡が詰まった人生。直接お会いするという形ではありませんでしたが、大好きな商品が世の中に生まれてきたストリーを通して、感じられたように思います。

 大きな組織での調整に頭を悩ませている人、マーケッターとして多くの人を動かさなくてはならない人。そんな方にお勧めしたい1冊です。

 今夜はやっぱり、ハートランドを飲もうかな。

キリンを作った男 マーケティングの天才・前田仁の生涯

永井 隆 著 プレジデント社発行を読んでの感想


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