見出し画像

「自立」にこだわりすぎなくても良かったのかもしれない

きっかけは、昼食時にうどんを茹でていた母が言った何気ない会話だった。私の従妹の子供に、ある美しい四姉妹がいて、このたびその三女Aちゃんが結婚し、仕事を辞めて専業主婦になったらしい。年齢は26~27歳だろうか。四姉妹の長女Mちゃんも、数年前に結婚して専業主婦になり、今は子育てに忙しくしていると聞いた。

普段なら「へぇ~、おめでたいねぇ」と流せる話なのだが、今の私にはこの話がかなりこたえて、昼食のうどんをすすりながらどうにも涙が止まらなくなり、両親をオロオロさせてしまった。

結婚、出産、子育て、専業主婦――39歳の私にはもう手に入らないかもしれないそれらのものたちを思うと、何とも言えないほど胸が苦しくなったのだ。

今は共働きが当たり前とされる時代だし、私だって専業主婦になりたくて生きてきたわけじゃない。むしろ逆で、経済的に自立した女じゃないと結婚してはいけないと本気で思っていた。非正規のループから抜け出せない限り婚活もすべきじゃないと思っていたし、恋愛らしい恋愛もせぬままひたすら仕事や転職活動を続けて、実際に婚活を開始したのは35歳で独立した時だった。その時でさえ、「シングルマザーになってでも子供を育てる覚悟と経済力がないと、子供を産むべきではない」といった“自立の呪い”にかかっていた。

結局、婚活はその後仕事に忙殺されて、気づけば脇に追いやられた。数年後には、激務でボロ雑巾のようになった自分だけが残った。今振り返ると、私の”自立”に対する考え方は、あまりに極端すぎたのではないかと思う。

仕事から離れた今、落ち着いて辺りを見渡すと、専業主婦をしている友人はたくさん居る。子供がある程度大きくなってから、資格を取って仕事を始めた友人もいる。かつてのクライアント先にはアルバイト雇用で結婚している編集者の子もいたし、派遣時代も周りに結婚している派遣社員はゴロゴロいた。

なぜ、私はその頃の私に、結婚に目を向けることを許してあげなかったのか。派遣時代は時間がたっぷりあったのだから、正社員を目指して面接ばかり受けていないで、婚活にも時間を割けばよかった。フリーランス時代だって、ギャラは減ってもいいからもう少し仕事量を抑えて、婚活に充てる時間を作ればよかった。

自立してなくたって、結婚している人は大勢いる。「まずは1人で生きていけるようにならなくちゃ」という、ある種の強迫観念に駆られて、私の首を誰よりも絞めていたのは私だということに、もっと早く気づいてあげればよかった。

「結婚したらキャリアが死ぬよ」とか、「結婚してなくても幸せな人はいっぱいいるよ」とか、「結婚したって幸せになれるとは限らないよ」とか、世間はいろんな価値観で溢れているし、もちろんそれらの言葉に真実の部分はあるのだと思う。でも、私「が」結婚したいと思うなら、周りの声なんてお構いなしに、自分の欲望に忠実に走ればよかったのだ。

今、私は心の底から「結婚したいなぁ」と思う。仕事を見つけるのが先だけど、でも、結婚したいという素直な感情を抱くことくらいは、そろそろ自分に許してあげてもいいんじゃないかな、そう思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?