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署名を始めた人に聞いてみよう。声をあげた瞬間のこと。 [第8回 芹ヶ野瑠奈さん]

このインタビューでは、Change.orgで「キャンペーン」と呼ばれるオンライン署名を立ち上げたことがある方に、署名活動を始めた頃の気持ちやエピソードをお話しいただきます。

第8回目は、自身や友人が痴漢被害に遭ったことがある女子高校生や大学生が中心となって立ち上げたキャンペーン「本気の痴漢対策を求めます!来学期からは #NoMoreChikan 」(https://www.change.org/NoMoreChikan)の中心人物、芹ヶ野 瑠奈(せりがの るな)さんにお話を伺いました。

『触れられるうちが華』『仕方ない』といった痴漢行為自体を軽んじる社会の風潮や、十分に実態調査が行われていない痴漢被害、男性警察官に被害時と同じ場所に立っている光景を撮影したいと言われる等のトラウマにつながりかねない取り調べ方法など、痴漢の被害に遭った当事者をさらに苦しめるような現状を変えたいと立ち上がった若者たち。現在2.8万を超える賛同が集まっています。

□芹ヶ野瑠奈さんプロフィール
日本若者協議会ジェンダー委員。2020年に日本若者協議会に参加し、ジェンダー平等を目指す提言の作成を開始。今年の9月に早稲田大学に入学。主に政治の観点から気候変動とフェミニズムについて活動を行なっている。

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世論を喚起し、希望を与えることができると思った署名活動

ーー芹ヶ野さんは、日頃からジェンダー問題や環境問題や、それに伴った選挙活動への啓蒙など、さまざまな分野でアクションを起こしてこられていますが、最初にこの痴漢の問題に関心を持ったきっかけを教えてください。

私が日頃から活動しているジェンダー委員として今年の6月くらいに次の提言書に何を書こうかという話をしてた時に、ちょうど友人から痴漢に遭って嫌なことがあったので何かできないかと相談されたことがきっかけです。その友達は痴漢報告をした後の取り調べが二次被害となるところが苦痛だと感じていて、私もウェブサイトや痴漢についての本を読んでいくうちに他にもたくさんの問題があることがわかりました。それを次回の要望書に盛り込むことを周りに提案したらいいねと言ってもらえたのがきっかけです。

ーー芹ヶ野さんはこの署名活動の中心メンバーのおひとりでいらっしゃいます。声をあげる手段としてオンライン署名を始めようと思われたのは何故ですか?

今回の署名活動で後ろ盾になってくださった日本若者協議会(若者の声を政治に反映させるために超党派で活動している団体)の室橋さんが過去にオンライン署名活動をしたことがあったためノウハウを持っていて、『普通に提言書を出すこともできるけど、署名活動を通して世間や社会の注目を集めて、それから意思決定者に話を持っていくといいのではないか。また、署名活動で広く一般の方々に賛同を呼びかけることで希望を与えることもできるので、署名活動をしよう』と言ってくださり、じゃあ署名をやってみようという話になりました。

それまでは私も普通に提言書を各政党に出す流れが一般的なのかなと思っていたんですが、署名を集めることで世論を喚起することもできるのかと思い、新鮮でした。自分自身もこれまでChange.org上で署名に賛同したことがあったけど、自分で立ち上げようと思ったことはなかったです。

今回も、もし自分ひとりだけで活動していたら署名は選択肢になかったと思います。あとは痴漢の被害に関する署名なので、反感を買ったら嫌だなとか、恨みを持った男性にターゲットにされたらどうしようという思いがあり、発信者の名前欄に自分の個人名を書くのは怖いと感じました。しかし「日本若者協議会ジェンダー委員」という団体名で活動をしてもいいと知った時はとても気持ちが楽になりましたフェミサイドの実態解明を求める署名などもそうですが、発信者の中には自分の名前で活動しておられる方もいてとても勇気のある行動だと思います。

自分たちが一生懸命書いた要望に共感してくれる人たちがこんなにいる

ーー誰でも最初はたった一人、もしくは数人規模で活動を始められることがあると思います。署名活動を始められる前のお気持ちを教えてください。

手探りで作ってみて、いざ作り始めてみると「あれ、こんな “なんちゃって” でいいんだ」と感じました。思ったよりすごく簡単でしたね。文章を入れて、画像も無料ツールを使って作りました。画像ってみんな見るので、ビジュアルは今の時代は大切だと思いますけど、探せば無料ツールもあるのでそこまで難しくありません。

ーー今日(2021年9月22日現在)の時点で2.8万、まもなく3万に届こうとしていますが、まだ賛同者が少ない時に支えになったエピソードや人の声があれば教えてください。

立ち上げた頃は賛同数の規模がどのくらいになるのかはよく分からなくて、1,000人いけばいいのかななんて思っていましたが、室橋さんには『最低5,000人、頑張って10,000人を目指そう』と言われて、「そういうもんなんだ!」と。(笑)でも結果的にどんどん増えて、順調に数が集まりました。痴漢の対策を求める内容なので、共感できる人が多くいたのだと思います。自分の知り合いや母親がシェアしてくれるだけではなくて、Twitterでも知らない人が賛同してくれたりして。オンライン署名って、会ったこともない知らない人の考えに共感・賛同して、拡散までしてもらえて、それには感動しました。あとは「共感します」とか「賛同します」と言ってくれるコメントも嬉しかったです。

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女性だけでなく、男性からも届いた応援の声

こういう活動をしていると時々、『これに問題意識を持っている人はもしかすると自分だけなのかな?』と感じることがあります。

気候変動問題でも、自分の周りにいる人たちはすごく気にしているけど、少し引いて見てみると、若者の多くは意識が足りなくて、自分とすごく温度差があるように感じます。ジェンダー問題も、女性はアクションを起こしている人が増えているように感じますが、男性は、たとえ「自分は男女平等の実現には賛成だ」という考えを持っていても、具体的に何かアクションを起こしている人となるととても少ないです。実害を被る側ではなくて、日頃から不平等が隣り合わせではないということも、大きな理由なのではないかなと思います。
オンラインでの署名活動を通して、自分たちが一生懸命書いた要望に共感してくれる人たちがこんなにいるんだなと思えたことは自信につながりましたし、これから提出して頑張らないとと思えました。

ーー出る杭は打たれるという風潮が強い日本で声を上げることは、否定的な声や心ないバッシングが来ることもおありだったのではないですか?

痴漢対策を訴える声に対するよくあるバッシングって、例えば女性専用列車を増やすことに否定的な声や、痴漢の被害を訴えると『冤罪はどうするんだ!』と攻撃的に言ってくる声があると思います。実際ネットで痴漢に関する書籍を調べても、痴漢そのものや痴漢の対策に関する本よりも冤罪に関する本の方が割と多かったんです。
女性は「痴漢」と聞くと自分が被害者になる場合を想像して考えることが多いけれど、男性は自分が加害者側・もしくは冤罪の被害に遭う立場として想像する方が多いと思うんです。なのでどうしても痴漢、というと冤罪に関して言ってくる男性が多くなってしまうんだと思います。
ただ今回はそう言った声はほとんどなくて、性別問わず共感してくれる方が多くいました。ある男性からは『自分は男性です。痴漢がなくなれば冤罪もなくなるので頑張って欲しいです。』という声が届いたり、女性からは、『どうして今頃高校生がこんなこと言わないといけないんだろうと思うと恥ずかしい』という声もありました。

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ただ、ひとつ印象に残っている批判の声は、最初に署名ページを公開した時に、宛先に各政党を書くのを失念してしまっていたことで、特定の政党に提出したことを進捗報告機能で報告したら『詐欺だ』とか『この政党と一緒にやってるのか』『騙された』とか『善人のふりして悪人だ』と言われたことがありました。私たちとしては、特定の政党と活動するという意図はなく、政党問わず幅広く声を届ける予定だったので、提出したい宛先もしっかり書いておくことは大切だなと痛感しました(現在日本共産党・都民ファーストの会・公明党・立憲民主党・文部科学省に提出済)
私たちもみんな18歳とか19歳とかで手探りでやっているので、騙されたと思わせてしまったのは申し訳ないと思いました。次は気をつけようと思いましたね。
ただ、単なる心ない批判やレベルの低い批判は無視していいと思います。

ーーこの署名に集まった賛同者からのコメントを読むと、当事者の声が多く集まっているのが印象的です。実際に署名簿と要望書を共産・公明・都ファ・立民・文科省に提出されましたが、先方の反応はどうでしたか?

そうですね。同じように苦しんでいる人がいるのだという当事者のエピソードを届けることもとても大切ですが、この痴漢の対策を求める署名に関しては、話を伝える相手の多くが女性で、担当者自身が周りで被害になった人がたくさんいて、こちらから例を示さなくてもわかっているパターンが多かったように思います。

実際に痴漢被害に遭ったことのある方のコメントを読むことで、「みんな経験しているし、これほど経験しているのに何も起きていないのがおかしい」と、私自身の怒りは強くなりました。

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ーー具体的にはどんな反応でしたか?

各政党に持って行った時は、話も聞いてくれるし『応援します、ぜひ進めていきたい』というリアクションをいただけました。文科省に提出した時は「いのちの安全教育」など、現在取り組んでいる具体的な内容にも触れることができたので、こちらもそれを聞いて足りないところを指摘するという意見交換ができました。

その時に見せてもらった、文科省が発行している「生命(いのち)の安全教育」の資料(子供が性暴力の加害者や被害者、傍観者にならないよう令和3年4月より段階的に進められることになった「生命(いのち)の安全教育」の教材および指導の手引き。「小学生(低学年)向け」「小学生(高学年)向け」「中学生向け」「高校生向け」「高校生(卒業直前)・大学生・一般向け」 などに分かれている)があり、その中でも「高校生(卒業直前)・大学生・一般向け」に書かれている内容が、レイプドラッグの危険性に関して触れられていたりして私は良いと思いました。ただ、痴漢の具体的な対策や防止策に関しては何も書かれていなかっただけでなく、これらは高校卒業「直前」に危険性を教えられても間に合わないと感じました。「そもそも高校生はアルコールは飲まないはずだから」という理由で高校卒業直前の生徒にしか危険性を教えないなんて、リアルじゃないですよね。

痴漢の被害にあった生徒のケアや、それによって学校に遅れてしまった生徒の扱いをどうするのかなど、生徒が自主的に動くことに任せきってそれに期待するのは無責任だし、明日にでも大人がしっかり対策を考えてほしいと伝えることもできました。文科省の担当者からも「高校生のリアルな声を聞けたのは嬉しい」と言われました。

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外に出ると世界は広い。自分にはできないと決めつけないで

ーー芹ヶ野さんは現在19歳でいらっしゃいます。声をあげたり、ソーシャル・アクションを起こしていることに対して、周りの同世代の皆さんの反応が気になることはありますか?

署名を立ち上げた当初、周りの人にも拡散して欲しいから自分のSNSにも載せたんですけど、1〜2人しか拡散してくれませんでした。もちろん拡散はしなかったけど署名してくれた人もいると思っていますし、実際私は恵まれている方で、こういった社会問題を日頃から話し合う友人がいたり、自分ができるアクションをしているという人も周りにいたりもします。でも、私が一緒に活動している仲間の中には、そういう校風じゃなかったり、社会問題について話せる友達がいないという人もいます。

ーー芹ヶ野さんが通っておられた学校の校風もオープンな校風だったんですね。(芹ヶ野さんは今年9月から大学生)周りの目が気になって声をあげづらいと感じている方々にメッセージはありますか?

ずっと学校に通っていると、それが自分の世界の全てになりがちですが、外に出ると世界は広い。自分と同じ考えの人はたくさんいて、その人たちとつながる方法もたくさんある。いろんなことにチャレンジして、SNSも使って、自分にはできないと決めつけないで挑戦して欲しいです。やだなと思ったらやめればいい。楽しそうだなと思える方向に一歩踏み出して欲しいなと思いますね。

私の周りでは自分に自信がないと言っている人や、自分の発言に価値がないって思っている人もいます。私は、その人たちに「あなたの思いや署名に意味がある」と伝えたいです。あとは困った時には周りの人に助けを求めることも大切だと思います。私の場合も室橋さんがたくさんアドバイスをくれたり、支えてくれる友達がいます。一度署名活動を始めると、たくさんの人がこの署名を待ってたんだということが分かるし、自分ができる限りやらないといけないんだということが原動力になっていますね。

私は今19歳で雇われている身でもないですし、失敗したら失敗したで仕方ない。そこまで自分にプレッシャーかけなくていいかなって気持ちで活動しています。

ーー活動に疲れた時にリフレッシュするためにしていることはありますか?

仕事とかいろんなものに追われている時は、昼寝も気持ちいいし、家事をすると達成感を感じます。あとは公園とか自然と戯れることが好きです。友達とおしゃべりしたり本を読むことも好きです。

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ーーありがとうございます。最後に、この署名活動の今後のご予定を教えてください。

賛同数でいうと、3万人まで増やしたいと思っています。要望が多岐にわたるので、今後は法務省・国交省にも話をしたいと思っていますが、内閣府にも持って行って話をしたいですね。

この署名活動は、はっきり「成功」の定義があるわけではないので、提出した後のアクションは今は様子見です。今実現すればいいなと思っていることは、例えば東京都の「男女平等参画のための東京都行動計画」に1文でも2文でも私たちの要望が加わったり、前述の「生命(いのち)の安全教育」に痴漢対策方法について記載されたりするなどで、私たちの努力のかけらが見えてくるのではと思いますね。