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謝罪ではなく対話を。「ヤレる女子大学生」記事を掲載したSPA!に署名を提出した大学生

(カバー写真:大妻女子大学にて)

雑誌『週刊SPA!』が2018年12月25日号に「ヤレる女子大学生RANKING」なる記事を掲載。女性蔑視的なバイアスに基づいて大学生の女性をランク付けし、多くの批難を引き起こしました。
今回は、この問題に対していち早く撤回と対話を求めて署名を立ち上げた山本和奈さんにお話を伺いました。

■心の底から呆れたあの記事

――署名を始めた当時は大学生。今は日本を離れて働いていらっしゃるんですよね。

そうですね。今はチリに住んでいて、ブロックチェーンに関わる事業で代表をやっています。

――今回は在学中に山本さんが始めた署名について伺います。まず、あの記事を知ったのはどんなきっかけでしたか?

発売されて数日経った2019年の1月に、Facebookで友人がシェアしているのを見たのが最初です。心の底から呆れたし、こんなことが許されていいのかと思いました。
単純にひどい偏見を助長するというだけでなく、実際にあのランキングにある大学の学生が何かの被害に遭ったときに、あの記事が裏付けとして利用されてしまうと想像できたので、それは避けなくてはいけないと強く思いました。

――「そんな格好をしているのが悪い」「夜道を1人で歩いているのが悪い」として被害者を責めるヴィクティム・ブレーミングやセカンドレイプの問題は根強くあります。

幸い自分のタイムラインでは最初からみんな「これひどいね」という感じで例の記事をシェアしていたので、今まで自分が日本社会において疑問に思っていたようなことを、多くの人が同じように感じていることがわかりました。
ただ、ひどいと思ってはいても、改善のために具体的な行動に移す人はそういないのもわかって。元々Change.orgのことは知っていたので、署名を立ち上げることにしました。

――これまでにも署名活動や、社会に対してアクションを起こした経験があったんでしょうか?

高校の卒業論文として、生徒一人ひとりが何らかの社会問題をテーマに調査するというカリキュラムがありました。中には署名活動に発展した人もいましたが、私はディスカッションの形をとりました。なので、署名を主導するのは初ですね。幼稚園からずっと、社会貢献に積極的なキリスト教系のインターナショナルスクールに通っていたので、子供の頃からこういった問題を身近に感じていたほうだと思います。それに、母が人権や動物愛護について関心の高い人で、家庭での教育の影響はとても大きいと思います。

■卒論&起業&署名

――ここからは具体的にどのように署名活動を進めていったのかを伺いますね。

署名ページは記事を目にしたその日のうちに立ち上げました。友達伝いに賛同してくれる人を集めて、一人ひとりにメッセージをもらって動画を作成して、署名ページに貼りつけたのが効果的だったと思います。私一人が怒っているのではなく、たくさんの人がこの問題に対して意見を持っているんだというのを示せたんじゃないかと。このときのアプローチや繋がりは、今私が運営している「一般社団法人 Voice Up Japan」へ発展しました。

――署名の数字の推移はどのようなものでしたか?

署名ページをオープンした次の日には万を超える署名が集まりました。2〜3日後には4万以上になりましたね。自分でもここまでリアクションがあるとは思っていませんでした。

――メディア露出も積極的にされていました。

最初がTBSの『ビビット』でした。その次にBusiness Insiderの竹下郁子さんから。その後もいろんなところから連絡をいただいて、気づいたらCNNまで。授業中に電話がかかってきて「今日中に取材をしたい」という依頼があったりもしてものすごく忙しかったですね…。

――大変…学生生活に支障はありませんでしたか…?

成績はけっこう下がっちゃいましたが、単位は概ねなんとかなったかな。
署名関連だけでなく、その頃すでに起業していて、そっちのほうが大変でした。仕事しながら卒業論文を書いて、署名活動もして。1年間ずっとそんな感じ。自分でも何が起こっているのかわからないというか、一息ついて把握している暇さえなかったというのが正直なところです。
でも自分としては、日本のメディアがフェミニズムを大々的に取り上げる機会を逃したくないって気持ちが強くて、できることはやりきりたかったんです。

――もちろん矢面に立たなくてはいけない場面は多かったと思いますが、山本さんの場合、先ほどおっしゃったVoice Up Japanのメンバーと共に複数人で署名活動を進めた点が1つの成功の鍵だったんじゃないかと思いました。

本当にそうです。1人ではまず無理でした。私、署名を始めた頃には仕事の関係でペルーへ渡航することが決まっていたので、その準備と並行して署名活動をしていたら自分が壊れると思って、すぐに周りに声をかけたんです。手伝うよって言ってくれた人を集めて団体として動き出しました。署名活動を始めた段階ではプロジェクト単位のチームだったんですが、もっと継続的にムーブメントを起こそうということになって、Voice Up Japanという一般社団法人の形をとることになりました。

――メンバーはどんな繋がりの人が多いんでしょうか?

元々の知り合いとそうでない人が半々ですね。同じ大学の学生もいれば、SNSを通じて声をかけてくれた人もいます。セクシュアリティもジェンダーも年齢もバラバラですが、海外で生活した経験のある人が多いというのはあります。

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(写真:慶應大学シンポジウムにて、#なんでないのプロジェクト 福田和子さんと)

■謝罪ではなく対話を

――もう1つ今回の署名活動の特色としては、集まった署名を提出する前に「オープンミーティング」をおこなったことも大きいかと思います。

署名を提出する前にやっておきたかったんです。Voice up japanのメンバー以外にもなるべくたくさんの人と議論を交わして、そのディスカッションの結果を持っていきたかった。
人にはそれぞれいろんなバックグラウンドがあって、それ次第では分かち合うことが困難な話題もある。
このまま私が喧嘩腰で行って相手に謝らせるのでは根本的な前進にならないので、まず相手がなんでこういう記事を書こうと思ったのか知る努力をしてから臨もうと考えました。

それに、偉い人が並んで頭を下げている謝罪会見の映像がニュース番組で流れてなんとなく終わった感じになる、というふうにはしたくなかった。一方的に謝って幕引きではなく、お互いの意見に耳を傾けて理解を深めたかったので、単に署名を提出するというだけでなく、対談という形をとりました。

――そうした背景でおこなわれた『SPA!』編集部との対談では、どのようなやりとりがありましたか?

ああいったランキングはやっぱりインパクトがある。売上を求めてインパクト重視になっていって、麻痺していたところがあると思うとておっしゃってましたね。
それを受けて私たちから細かくどういった点がどのように問題なのか、いかに性暴力や女性蔑視を助長しているのかというのを説明して、編集部のかたがた一人ひとりに、改めてあなたがこのランキングに載せられた大学の学生だったらどう思いますかと尋ねました。その上で最後に、自分の言葉で何が問題だったのかを言語化してもらって、概ね理解いただけたと思います

――対談に向かう前はどんな心境でしたか?

やっぱり不安でした。どんな人が来るんだろうって。でも全然怖い人ではなくて、むしろ話しやすいかたがたでした。
私としても話してみて学びがありました。まずは今メディアっていうものがどれだけ苦しい状態なのかっていうこと、あとは向こうの社内にも問題意識を持った女性がいたということも。
最終的には私たちのほうから「こんな記事はどうですか」なんて企画の提案をして、笑いあって終えられました。実際そのときに話した「性的同意」についての記事の企画が今進んでいるそうです。

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(写真:東京駅前フラワーデモにて)

■チリのフェミニズムの今

――インタビューも終盤ですが、署名活動を完遂した今、振り返って思うことをいくつか伺います。本当に大変な1年だったと思いますが、活動の励みになったことはなんでしたか?

東北でフラワーデモを始めた子たちなど、同世代でアクションを起こしている人の影響は大きかったです。それに、私たちの活動が声を上げるきっかけになったと言ってくれる人たちからのメッセージは本当にエネルギーになりました。

――逆に、好ましくない反響もあったかと思います。

そういう反応はどんなことをしたってくるものだと活動を始める前から思っていたので、不必要に気にせず進められました。反対意見がまったくないならそもそもあんな記事が世に出ることもなかったでしょうし、逆にみんなの意見が同じことのほうがある意味怖いですよね。だからクソリプは来るものだと思ってました。
「帰国子女は黙ってろ」とか「愛国心のない奴だ」とか「なんでもかんでも海外と比べるな」とか、いろいろありましたよ。別に他の国と比べてどうこうではなく、好ましくないことが起こったから改めようというだけなんですけど。今私の住んでいるチリにも問題はありますし。

――チリに移り住まれたのはどういう経緯だったんでしょうか?

2017〜18年度までペルーのカトリカ大学に留学していたのがきっかけです。そのときに現地でいろんな人と知り合って、南米での生活を考えるようになりました。南米での生活が本当に楽しかったし、自分に合っていると感じたんです。逆に日本社会に対しては疑問に思うことが多かったので、早い段階で卒業したら南米に行こうと決めていましたね。

――日本ではあまり報じられませんが、チリのデモは世界から注目されていますよね。たくさんの女性が「加害者はあなただ」と強いメッセージを発信していました。現地に住む人の視点から詳しく伺いたいです。

チリでは性被害に遭った人たちによるSNS上での加害者の告発が日々おこなわれています。名前はもちろん、ショートメッセージのスクリーンショットから社会保障番号に至るまで公開されるような場合もあるんです。
警察によるデモ参加者への加害も大きな問題になっていて、それを告発する歌とダンスが大きな特徴です。

――「Un violador en tu camino(あなたの行く道にいるレイピスト)」と呼ばれる歌ですね。スクワットの振付が特徴的です。

あれは、警察が取り押さえた人を取り調べの際に全裸でスクワットさせることを糾弾するものです。チリは軍や警察の力が強すぎて、そういった違法捜査がまかり通ってしまっている現状があります。性暴力に対するケアも行き届いていません。

そういった意味で言えば、クソリプにあったように一概に日本が遅れている、あの国は進んでいるという話ではないというのは私も同意見。それぞれの国にそれぞれの問題があり、その箇所が違うだけ。でも「だからどっちもどっちだね」と話を終わらせるのではなく、それぞれの国がよりよくなっていくことを目指すべき。

――ありがとうございます。この記事を読んでいる人の中には、ジェンダーにまつわる話題に触れはじめたばかりだという人もいるかと思うのですが、そういったかたに向けて何か伝えることはあるでしょうか。

私自身ジェンダーに関することを学びはじめたのは大学に入ってから。Aジェンダー(※)の友達ができたのが最初のきっかけです。それまでAジェンダーという言葉も知らなかったし、チリに住みはじめてから学んだこともたくさんあります。誰しもそれぞれのきっかけ、それぞれのタイミングで知ることを始めていくものだと思うので、それぞれが今だと思うタイミングで始めていってほしいです。

※Aジェンダー:自分は男でも女でもなく、当てはまる性別がないとするジェンダー・アイデンティティのこと。日本語ではしばしば「無性」と表現される。

世界を変えるのは難しいけど、1人で100人をではなく、100人で1人ずつ変えていくのであれば持続可能だと思うんです。近い考えの人同士助けあって、完璧でなくていいから1歩でも0.5歩でも前進できるように、声を上げ続けていくことが大事だと思います。

――ありがとうございます。では最後に、今後考えている次のアクションがあれば教えてください。

今回の署名を通して生まれたVoice Up Japanでの活動ですね。Voice Up Japanは、日本でより多くの人が声をあげられるような環境を作り、ジェンダーの平等を目指す組織。SPA!の件以降も、就活セクハラに関するパブリックコメントを厚労省に送ることを促す活動などをしています。
いろいろ考えているところですが、Voice Up Japanとして署名活動をスタートするかもしれません。

(インタビュー:ヒラギノ游ゴ 画像提供:Mayu Ono)