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人の心に残る物語は、人を傷つける物語であるー『猫を棄てる』ー

『人を傷つける物語を描きたかったんです』

これは進撃の巨人の作者、
諫山創氏の言葉です。

六本木、森アーツセンターギャラリー『進撃の巨人展FINAL』で
この言葉に出会ったとき、

何かを生み出していく作り手の壮大な、もっと言えば呪いのような因果を感じて、
一人恐ろしさに立ち尽くしたのを覚えています。

『猫を棄てる』のページを閉じた時、私はこの言葉を思い出していました。

不思議な繋がりを感じたためです。

私の心にそっと影を落とした、
『猫を棄てる』について
書いてみたいと思います。


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痛みを伴うから、忘れられない出来事がある

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トラウマ、と聞くと、
大なり小なり思い付くものがあります。

例えば私なら
北海道に住んでいた時、
虫を捕ろうとして、段差に躓いて転んだこととか。

何をそんな小さなことを、
と思うかもしれませんが、

母に叱られ、
傷は痛み、
とにかく後悔したのを覚えています。


『猫を棄てる』で村上春樹氏は
第二次世界大戦の経験がある父、村上千秋氏から、あまり語りたがらない戦争の片鱗を、ふと打ち明けられたと語ります。

いずれにせよその父の回想は、軍刀で人の首がはねられる残忍な光景は、言うまでもなく幼い僕の心に強烈に焼きつけられることになった。

父の口から語られた、中国人兵を殺した光景は、トラウマとして今も春樹さんの心に遺されているといいます。

そしてこれは、
父から春樹さんへ
"継承した"のだと語っています。


痛みを人に話すことは、
少なからず相手にもその痛みを背負わせてしまうことになりますが、
それが風化させないことであり、歴史を作るということなのでしょうか。

これを読んだ時、
流れ込んできた痛みと共に、
"私もまた継承したのだ"と痛感しました。

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実は、
先ほどの虫捕りの話には、
続きがあります。

当時私は、捕った虫を生き埋めにする遊びをしていました。

砂に埋め、どれが生き残るか友人と賭けては、生き残った虫を観察していたのです。

段差に躓いて血を流した時、
母は私にこう言いました。


「ほら、バチが当たったんだよ
虫を殺したりしたから、ケガをしたんだ」

その時、私はぐっと腹の底が冷えるような、
強烈な感覚に襲われました。

私はこれまで何とおぞましく痛ましいことをしてしまったのか、と青ざめていました。


そして初めて、
自分の行動の残酷さに気づいたのです。

人は何故、痛みを伴わないと気づけないことが多いのでしょうか。

失ってから、
全てが終わってから、
心を痛めて初めて、
気づくことが多いですね。

そして、
それを忘れていくのもまた人間です。

今の私に出来ることは
痛みを知ること、
そしてその痛みから学べることを一つでも多く見つけ、
それをだれかと話すこと

軽薄な自分にはそれしか
思いつかないのです。

足の傷痕は、未だに消えていません。

降りることは上がることよりずっとむずかしい

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これは、『猫を棄てる』の終盤に出てくる言葉です。

飼っていた白猫が家の松の木の上まで登ってしまって、遂に降りられなくなってしまったという内容。

ここまで詰まることなく読んできたのに、この言葉を目にして初めて手が止まりました。

一体どういう意味なのか、
私には分からなかったのです。

この後、こんな文章が続きます。

結果は起因を呑み込み、無力化する

ますます難しく感じてしまい、
ページを捲る手が止まってしまいました。

その時は、なんとなく
「過去を振り返ることは、結果を出すことよりも難しい」
というような意味かと考えたのですが、

ふと、ある記事を見つけました。


「ホロコースト」
ナチスドイツで行われた大量虐殺を指す言葉です。

この記事の中で、ナチスドイツが大量虐殺を始めた本当の経緯は、今でも曖昧で分からないと書かれています。


 大量虐殺が行われた事実がこんなにも遺されているのに、始まりの理由が分からない 


やり場のない怒りはこういうことなのかと、
こみ上げるものを抑えることができませんでした。

その時初めて、
もしかすると、筆者が語りたかったのはこの部分だったのではないかと思ったのです。

何気ない生活から不安が生まれ、
その不安は民衆の中で混濁とし、
戦争が生まれることを考えると、
急に足元が揺れているような、どうしようもない不安に襲われます。

歴史を勉強しなくてはならないと、強く思います。一生のうちにどれだけ知ることができるか分かりませんが…

人は地上に向かって降りていくことが難しい生き物だから。




感想文を書く手が何度も止まりました…。
言葉にするほど嘘になるようで…

ですがここまで付き合って下さった皆様、本当にありがとうございます。


記した通り、
歴史能力検定を受けてみようと思います…!
それについてはまた改めて…



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