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空のフィルムカメラと過ごした半年間

5年前、Nikonのフィルムカメラを譲り受けた。大切に、大切に、36回シャッターを切った。Xmasに向けて毎日シュトーレンを少しづつ切り分けるように、楽しみながら1本のフィルムを使い切った。いざ現像しようと、開け方もわからないそのカメラを、知人のところに持っていった。一枚も写真が撮れていなかった。空のボタンを、半年間も押し続けていたことが判明した。

先日、そのフィルムカメラに久々にフィルムをいれた。浅草の隅田川で日の入りを眺めながら、この色の移り変わりを白黒フィルムはどのように描写するのだろう。フィルムの置いてありそうな店を五軒周り、コダックの白黒フィルムを購入した。フィルムは、前科もあり心配なので、お店にいた気の良さそうなオジさんに入れて貰った。その人は飲み会を抜け出してその飲み会の写真を飲み仲間に配るための現像でお店に来ていた。写真を撮ったり、それを人と共有することは、楽しい。新しい現実を作る。

昨日から体調が悪く、ずっと家にいた。今日はずっと家にいてもなんだからと、近所の公園を散歩した。最近、SNSを見過ぎな気がしてスマホを家に置いた。カメラも。そのどちらも他者を意識するから、それと一時的に距離を置いたことで、頭の中のどこかの緊張が緩んだ。好きな道を、ゆっくり歩く。いつだって立ち止まれるこの歩速に安堵する。樹木と落ち葉と光のあるところをぼんやり眺めている。名前の知らない小さな鳥が、私の届かない空を、泳いでいる。

デジタルカメラでは写真を撮り始めて10年目になる。身体で撮っていたのが、頭で撮るようになった。考えすぎだ。考えたことは、すぐに忘れる。(今朝、SNSで何を見たかなんて覚えていない。のに、毎日私たちはSNSに膨大な時間を、意識を持っていかれる。)1年で10万枚撮った当初とくらべて、ずいぶんと撮る枚数が減った。今のスピードは、フィルムの方が合っているかもしれない。撮れてるいるかさえわからないのだから、その風景を逃すことを恐れず、もっと無責任にシャッターを切りたい。



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