残酷な傑作。映画「すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」が世界も狙える3つの理由

※ネタバレ含みます。

人生は残酷だが、素晴らしい。

優れた王道の物語はこう語りかけてくる。

映画ジョーカーのように「人生は残酷だ」というだけの物語もあるし「人生は素晴らしい」とだけ言う物もある。子供向けの物語の中には後者が多いが、きっちりと残酷さも伝えながらそれを補ってあまりある優しさがこの物語にはつまっている。

子供に、自分の願いが必ずしもかなわないという現実を伝えたいけど、一方であまり傷ついてほしくないと願う親は多いと思う。そういった親にもこの物語はうってつけだと思う。ざっくりとストーリーを書くとこうなる

起:すみっこ達は絵本の世界に迷い込む
承:絵本の世界で迷子のひよこにであい、ひよこの家を探してあげようとする
転:ひよこの家は見つからず、すみっこ達とも別れなければいけない
結:すみっことひよこは別の形で再会し、ひよこは自分の家を見つける

異世界を旅して戻ってくること。出会いと別れを描き、転のパートで絶望を、結の希望を描く王道的な展開なので伝わりやすい。承のパートではめまぐるしく舞台を変えて飽きさせないサービス精神が発揮されている。

特徴なのが極限まで言葉を無くし、ビジュアルコミュニケーションを徹底していること。とくに素晴らしいと思ったのがカタツムリの貝を使って、ひよこがすみっコ達の世界にいけないことを図解しているところ。

ここは言葉でいってしまえば簡単だけど、布石として絵本の世界でゲットしたカタツムリの貝というシーンを描いてまで図解している労力がすごい。

コンテンツは全体的に、インスタで写真をみて店を選ぶように、言葉からビジュアルコミュニケーションに移行しつつあるけど、ここまで言葉を無くして物語が成立しているところは新しいし、参考になる。

・言葉を排したビジュアルコミュニケーションの徹底
・普遍的な王道ストーリーであること
・アニメであること

この3点が揃っているので、日本以外でも展開しやすいだろう。ネットフリックスなどに配信すれば世界中でもウケるのではないか。

しかし最後の物語の収め方は良かった。起承転結の結は、絶望をどう希望に変えるかというもっとも工夫のいる点だけど、みんなが小鳥になるというアイデアは、別れの悲しみをクリエイティブに生かして昇華させている。

似たものとして、手塚治虫の「紙の砦」を思い出した。この物語は、戦争のさなか、女優を目指す美少女と出会った手塚少年の思い出ばなし。戦争のなかで美少女は顔を火傷し、夢はかなわなくなる。しかし手塚少年は自分の漫画で描くヒロインにこの女性の顔をモチーフにし、彼女の夢を別の形でかなえてあげようとする。

このように悲しみをクリエイティブに生かすパターンは他になにがあるだろうか。もう少し広くして、「別れたけど別の形で再会する」というパターンだと、シザーハンズで、雪を通じて別れた主人公達が再会しているシーンが思い浮かぶ。

さよならだけが人生だ。もし優しさがなければ。

映画「すみっコぐらし」は、さよならと優しさを描いた、面白くて悲しい、残酷だが素晴らしい映画でおすすめです。


映画「すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」
https://www.san-x.co.jp/sumikko/bookcafe_movie/2019/

読んでくれてありがとう!