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舞台「あれから」2024

”前川優希”という俳優を推し始めて数年、はじめて彼の演技を見ていられないと心の底から思った。
こんなにも直視することが苦しくて仕方が無いのに、ヒデの辿る道から目を逸らすことも出来なかった。
それはきっと確かにあの場に「三輪秀仁」という男の人生が存在していたからだと思う。

さて、今から舞台「あれから」の感想を書かせてもらうのだけれど、少しだけ自分語りをさせてもらってもいいだろうか。興味のない方は回れ右してね。
本来はきっと書かなくてもいいのかもしれないけれど、どうしてもここを書かなければ私の受け取った感情がうまく言葉に出来ないから。

この作品について事前知識はほぼ何も入れずに入った。フォロワーが書いた感想もまったく読まず、TLはあまり見ないようにしていた。
だから、本当にまさかだった。
交通事故で亡くなった従兄弟の一周忌に参加した2日後にこの作品を見ることになったのは、何かの不思議な縁だったのだろうか。 
信号のない横断歩道を渡っていた際に、ノーブレーキで車が突っ込んできたそうだ。即死だったと聞かされた。今もまだ実感はあまり無い。
そして、これもまた偶然にしては少し出来すぎているのだけれど、夏休みに実家を大掃除した際に出てきた使い捨てのフィルムカメラを現像したところ、交通事故で亡くなったその従兄弟と数年前に亡くなった私たちの祖母、そして私たち姉妹の幼い頃の写真が出てきたばかりだった。
法事が終わってから親戚総出でごはんを食べに行った際に、みんなで従兄弟との昔話や自分たちの近況の話に花を咲かせ、そのまわりでは従兄弟の子供たちが元気に走り回っていた中で、いとこの父親(私からすると叔父)は嬉しそうにその写真を眺め、いつみんなが遊びに来た時の写真かなぁと笑っていた。
久しぶりに見たいとこの母親は昔よりも背中が丸まり、以前の覇気はなかったけれど、その写真を大切にカバンにしまって持って帰ってくれた。
正直、私は1年経った今でもどこか現実味がなくていとこが居なくなったことを受け入れられないでいる。しかし、叔父が報告までと見せてくれた裁判の資料を見て「交通事故で命を落とすということはこういうことなのか」とやっと実感した。事故の詳細な経緯や叔父・叔母の陳述書、そして働いている会社の上司からの証言を読み、その喪失感をありありと感じたとき、いままで堰き止められていた涙がやっとボロボロと溢れて止まらなくなった。

さて、作品の感想へと話を戻そう。
歳もバラバラの幼馴染4人の楽しい海外旅行。その雰囲気は良くも悪くもThe地元ノリという感じだ。陰キャ的には正直近寄りたくないタイプの人たちかも。
帰国してからもきっと続くはずだった楽しい生活は突然降り始めた雨によってその様相を変える。
バイクと雨、その単語が出てきた時点でその先が指し示す展開を理解した。まさかそんなはずはない。もしかしたら間違いかもしれない。奇跡的にただの大怪我で済むかもしれない。大丈夫、大丈夫。そう自分に言い聞かせるこの感覚を私はよく知っている。
大が事故にあったと分かったあの瞬間に、従兄弟の姿がフラッシュバックして、心臓が気持ち悪いくらいに嫌な音をたてていた。
目の前の現実とまったく湧かない実感、あの日の感情のすべてが今でもありありと思い出せる。きっと残された彼らも同じ気持ちだったはずだ。

医療職についている私がこんな言い方をしていいのか分からないけれど、人間は思っているよりも呆気なく死ぬものだ。でも心のどこかで「このくらい大丈夫だ」と思う気持ちは確かに存在する。
きっと正常性バイアスというやつ。
まさか自分が交通事故の遺族になるなんて。
まさか友達がこんな若さで死ぬなんて。
当然あるはずだった未来が目の前でガラガラと崩れていく音がただ虚しく響く。
そこに静かに存在しているのは誰も思ってもみなかった現実だけ。

当たり前かもしれないが、この世界は全て「生きている人間」が作り上げているものだ。語弊のある言い方かもしれないが私は人が亡くなる度に強くそれを痛感する。
どんなに大切な人が亡くなっても、お腹は空くし、眠くもなる。生きている限り全員に明日は平等に訪れる。
過去に縛られ、たらればを語ればキリがないが、それでも生きている以上は日々を過ごさなければいけない。

がむしゃらに前に進んだ人
過去を大切にしながらも前を向く人
そして、立ち止まったまま時間だけが過ぎていき、道を踏み外してしまった人。
三者三様の10年があったはずなのに、ヒデだけはほとんど変わらない服装に2人との対比を感じて苦しかった。これはふたりが変わりすぎているのだろうか?それとも10年も経てば変わらないことのほうが珍しいものだろうか?
10年振りの邂逅はあまり空気の良いものでは無かった。
そこに成仏出来ないまま10年間彼らを見つめ続けた大が現れる。一日だけ神様に現世へ戻してもらったわけだが、この神様がなんとも胡散臭い。アロハ着てiQOS吸ってる神様普通に嫌だろ。なんか、威厳的に。
そんなこんなで10年ぶりに揃った4人だが、最初はぎこちなかった会話やそれぞれの確執が垣間見えていたはずなのに、大が加わることでゆっくりと溶けていく様子があまりにも自然で、やっぱりこの人達の中心には相見大の存在が必要だったのだと思わざるを得ない。
だからこそ現実をふと思い出したようにぎこちなく視線を彷徨わせたり、口篭るヒデの姿が余計に目に余るのだろう。
たとえどんなに昔を思い出そうと、過去には戻れない。大はもう居ない。10年という月日はあまりにも長すぎた。
ヒデが歩んだ10年はきっと他人から見ればどうしようも無いものだったのだと思う。
自分の作り上げた理想的で優しい大という存在に甘えて、自分の弱さを酒で覆い隠して、仕事も続かず、借金にまみれ、ついには自分が慕っていたはずの先輩の店のお金に手をつけようとするのだから本当に救いようも無い。
躊躇うように伸ばされた手とお金を目の前にして逸る気持ちが見て取れた。一瞬の気の迷いだとしても絶対に踏み外してはならない道理を犯す前にミノルが止めてくれて本当に本当に良かった。ここでお金を取ることが出来ていたら彼はもうきっと道を正すことなんて出来なかっただろう。このまま一歩ずつ緩やかに破滅の道を歩んで朽ちていく未来しか無かったはずだ。
絞り出すように言い残す「俺のこともう見ないでくれ」という言葉に詰まった情けなさや後悔、他にもたくさんの感情が胸を締め付ける。
でも、その弱さがある意味とても人間臭いなと思わずにはいられなかった。
どれだけ願っても過去に戻ることは出来ないし、時間は容赦なくズンズン進んでいく。 
自分がどこで間違ったかなんて、きっと誰よりも自分がよく分かっているはずなのだ。
失った10年を取り戻すことはきっと容易いことではないだろう。
それでも彼があの一日を通して前を向くと決めたのだ。
タケにとって大の死が人生の転換期になり、その先に結婚と幸せな家庭が待っていたように、その決断の先に繋がる新しい縁があることを願わずにはいられない。

支離滅裂になりすぎて何が書きたかったかよく分からなくなってしまったのでここで終わり。
でもまとまりきらなかった主要キャストのほか3人についてだけ追記させて欲しい。

相見大 (清水一輝さん)
生きている人間と時の流れが違うとはいえ、自分が交通事故で死んでから10年間も何も出来ないままバラバラになっていく大事な友達を見つめ続けるのはきっと苦しかったはずだ。
大が戻ってきたことで不器用ながらも少しずつ元の4人の空気に戻っていく様子とそれを見つめる目の優しさが「こうやって誰も一人にならないようにしていたんだろうな」と思わせるにはピッタリだった。
大のまっすぐさにはどこか20代の若さゆえの無鉄砲も混じっているような気がして、30歳を超えたかつての仲間たちには眩しかっただろうなぁと思ってしまう。
彼が結びなおした縁がずっと続きますように。

古城健史(高崎翔太さん)
1番変わってしまった人。傍から見れば良い変化でしか無いけれど、昇進したことで失っていたものもきっとある。がむしゃらに働くことでしか気持ちを埋められなかったのかなぁ。忙しければ忙しいほど他のことなんて考えなくて済むもんね。その変化のおかげで掴めた“家庭”という幸せが確かに存在している。失うばかりの世界では無いのだ。
大に「昔みたいにみんなを集めてくれ」とお願いされた時に「出来ない」と声を荒らげる瞬間が胸がギュッと苦しくなる。
大はきっとタケのことを同列に見ていたかもしれないけれど、タケにとって大は紛れもなく人生を変えてくれたヒーローみたいなものだったのだと思う。
大のようにみんなを集めることは出来ない。実際にバラバラになった姿がその証拠だ。
それでもヒデを救い、BARウミガメに皆で集まる口実を作り出す。
大の代わりは出来なくても、タケなりのやり方でみんなを繋ぎ止めることは出来るもんね。

兎川実(佐藤祐吾さん)
きっと、大の次かそれ以上に4人であることを大切に思っていたのはミノルなのかもしれない。1番昔に戻りたいと思っていたのは彼なんじゃないだろうか。
末っ子気質で、頼ることも上手いからこそ、きっとりこと支え合って少しずつ折り合いをつけて生きてきたはずだ。
最初に離れていったヒデや仕事を理由に変わっていったタケを受け入れられなかったのは本当に4人でいることが楽しくて、みんなの事が大好きだったからなのかもしれない。
大好きだったからこそ、裏切られたような気持ちになってしまったんだろう。
大好きだからこそ、ヒデの姿に怒りが止められなかったんだろう。
そのまっすぐな感情の発露が心に突き刺さって今も抜けないでいる。

 
本当に凄い演劇だった。
こんなにも泣いた舞台はいつぶりだろうか。
正直いまも頭の中はぐちゃぐちゃで、ただ思いつくままにこのnoteに感想をぶちまけている。
あとから読み返したらきっと読みづらすぎてキレる未来が見える……笑
でもこの支離滅裂な感情でさえも残しておきたいなぁと今は思う。
正直、見ているだけのこっちですら精神が削られるような内容だったけれど、見ることが出来て本当によかった。不思議とこのぐちゃぐちゃの感情が嫌いでは無い気さえしてくる。
こんなにも苦しいのに、板の上に立つ彼らの物語の行く末を見届けたいと思ってしまう。
私はこの衝撃が忘れられなくてきっとこれからも演劇を見ることを辞められないのだろう。
ああ、前川優希という俳優を推していて本当に良かったな。
前川さんを通して、心を揺さぶられるいい芝居に出会えることが何よりも嬉しいな。
これから先、もっとたくさんの素敵な演劇に出会えますように。


おわり。


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