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小説『アンチバーチャルリアリティ』#13

「説明は終わったかしら?」
「シバー!!チャンスをくれてありがとう!大好き!!」
 騒々しさと共に、ツユとハイビが部屋に戻ってきた。
「あいつがいると話がややこしくなるから、姉さんに連れ出して貰ってたんだ」
 シバが小声で私たちに伝える。私は小さく笑った。まるで手のかかる妹のような扱いだ。
「シバ、それでこれは、いつ?」
 私がシバに問いかける。その場にいる全員の視線がシバに注がれた。
「一週間後だ」

✻✻✻

「そうと決まれば服を作らなきゃ」
 アザミはキビキビとした手付きで私の体の寸法を測っていた。
 腕の長さ、胸囲、腹囲……測定した数値をメモに取っていく。刃物で斬りつけられた痕のような、鋭い文字だった。
「あんた、細いわねえ。それにここまで小さい子の服作ったことないからちょっと心配だわ」

 ツユとシバの来訪の翌日、私とミズキ、それから団員全員が以前の廃ビルに集まっていた。
 前回の様子からして、私たちが作戦に加わることについて、少なくともアザミは大きな抵抗を示すものだと思っていたが、案外すんなりと受け入れられた。
「人員を増やしたいのは本当なのさ。アザミもね」
 私の微妙な表情を読み取ってか、ソテツが補足する。
「それに、君たちを憎んでいるわけではないしね」
「はい、話はそこまで。まっすぐ立ちなさい」
 何か決まれば行動は早いらしく、アザミはメジャーを勢いよく引き出した。
 そして、現在の採寸に至る。

 黙々と体を測られることに少々の気まずさを感じ、私はアザミに話しかけた。
「洋服作るの、お好きなんですか?」
「うわ、敬語で話しかけられることなんて無いから気持ち悪いわ」
 アザミは顔を顰める。しかし、本気で嫌がっているわけではなさそうだ。
「まあ……お好きというか、これは仕事ってカンジ」
「仕事?」
「最初会ったとき、私ら黒ずくめだったっしょ。覆面とかしてたし。カレクサ団として動くときは、一応すぐには身バレしないようにああいう格好してるのよ」
 確かに、あのときはハイビを除く全員が黒い服装をしていた。シバは口元まで覆うフード、アザミはマスク、ソテツはサングラス……と顔も隠していたはずだ。
「でも、それを抜きにしたって服を作るのが好きなんでしょう?」
 様々な質感の布を並べながら、ツユはアザミにいたずらっぽい表情を向けた。アザミはキッと睨みつける。
「う、うるさいわね」
「あら、違うの?あなたが普段着てる服も、自分で作っているのに。ハイビにも作ってあげていなかったかしら」
 へえ、と感嘆の声が漏れる。彼女が身に纏う洋服は洒落ていて、そして彼女によく似合っている。とても自作のクオリティには見えなかった。
「好きと言われれば、好きかもね。……今のこの世の中じゃ何の役にも立たない感情だけど」
 アザミは自身の照れを隠すように言った。

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