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『魔の山』 トーマス・マン 望月市恵訳 岩波文庫


トーマス・マンの『魔の山』、本の紹介を読むとたいてい「教養小説」とか「成長小説」と書いてあります。『魔の山』というタイトルと「教養小説」「成長小説」という分類。何のこっちゃ?という感じですが・・・


読んでわかりました。この小説全体がめくるめく「知の世界」であり、主人公の成長を通して「人としていかに生きるべきか」を探求するものだということが。


ハンス・カストルプは23歳。いささか軽薄なこの青年を主人公として、物語は「神の視点」で展開されます。
3歳年上の従兄であるヨーアヒム・チームセンを療養所に見舞いに行き、そこでさまざまな個性的な人物たちと出会い、「下の世界」では想像もしたことのなかった価値観に触れることになります。


「知の世界の水先案内人」となるセテムブリーニという男性、そして魅惑的な人妻・ショーシャ夫人との出会いが決定打となり、「魔の山から下りることが考えられなく」なっていきます。
本のタイトルの『魔の山』は、療養所のある高地を指しているいるわけですね。


ハンス・カストルプの「知の冒険」の数々が描かれるわけですが、この岩波文庫版の下巻で「知を超えるものがある」ことに主人公が気づいていくあたりから、物語は俄然面白くなっていきます。
ざっくり言うと「人としていかに生きるべきか」を知るあたりから、ということになると思います。


ハンスの「魔の山」での日々が7年に及んだ時、第一次世界大戦が勃発。世俗を離れた「魔の山」を離れるべき時が来たとハンスは悟り、山を下りて従軍します。


シューベルトの「菩提樹」を口ずさみながら、雨の中、行軍するハンス。そこからの「神の視点」での語りが素晴らしく、ゾクゾクするのですが、そこはあえて書きますまい。
私はこの本を読んですっか

りトーマス・マンが好きになり、ドイツ文学者の方のセミナーを受講したり、ドイツ映画祭でマンのもう一つの有名な長編『ブッデンブローク家の人々』の映画を見に行ったりしました。
ドイツで放映されたというテレビドラマ版『魔の山』のDVDも買いました。
ドラマはとてもよくできていて、小説の理解が深まりました。

魔の山3


ああ、止まらない!! また読み返さなくちゃだわ!!!


望月市恵氏の翻訳が本当に本当に素晴らしいので、ストレスなく読むことができます。マンの持ち味であるアイロニーとユーモアも、完璧に再現されています(ドイツ語、わかりませんが)

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