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C36 「見る」と「やる」では大違い

トーマス主任は「ジェームズは、トラクターの後ろに散らばっている小枝を集めて、畑の隅にあるコンテナに集めるのが作業だ。」と指示されました。あー、やっぱりこいつにはゴミ拾いしかできないんだろう、かわいそうにと同情していると、あらぬことか、ジェームズは嬉しそうに返事をして皮の手袋をはめ始めました。まったく、コイツはバイト生としてのプライドはないのかと呆れてしまいました。時給を決められて働くのだから、せめてその分の仕事くらいしないといけないと思います。もしかすると主任は、全体の指揮を取るための管理職としての仕事があったのかもしれないのに、ジェームズのせいで現場に張り付くことになったために、それができないのではと想像すると、ジェームズの脳なしぶりに腹が立ってきました。

そんなことを考えていると機械が動き始めました。トーマス主任と私は、チームとしては4番目のしんがりです。たぶん私が他の農夫たちが仕事をしている様子を観察させて、作業のイメージを私に見せるためではないかと思います。さて、摘み取り機は、すさまじい勢いでお茶の木状に刈り込まれた木々を揺すり、果実の収穫用の開口部から、これまたすさまじい勢いでブラックカーラントの実を吐き出します。同時に風も一緒に出てくるので、トレーの下に引くためのビニールシートが風のせいで、なかなかトレーの底に敷けません。そのため二人がかりでビニールシートの四方を摘まんでトレーに敷いています。しかし敷くために時間がかかると引いたシートの下に木の実が溜まってしまい、その分の果実は無駄になります。それでも農夫たちは、強引に作業を進めています。なんとかビニールシートを敷くことができれば、作業は楽になるし、無駄もなくなるだろうにと何かアイディアはないかと知恵をめぐらしました。

30分ほど連続作業をすると次のチームと交代します。私たちは、実際の作業をするのは、10時のティータイムの後になるだろうと予想しました。案の定、3チーム目の途中で10時の休憩になりました。結局、私は、機械が通った後に出る小枝を他の作業員と一緒に集め、それをコンテナに運ぶだけでした。つまりジェームズと同じ作業でした。肝心のジェームズはとチラリと見てみると、もう誰も相手をしてもらえないのか、一番端で、つまらなそうに水を飲み、タバコを吸っています。先週末パブでお金を使いまくって、金もないだろうに、贅沢にも高級な箱入りのタバコを吸っています。まったくなんてマイペースな奴なんだろう。周りの空気なんて関係ないのです。半分うらやましくもあります。

さて、ビニールシートを上手く敷く方法ですが、ひとつアイディアが浮かびました。実際トレーラーに乗り込んでみないと結果はわかりませんが、せっかくここで働いているのだから、能動的に仕事をして、なにか役に立てればやり甲斐にもなると思います。さて、休憩も済み、機械のけたたましいエンジン音が再び響き始めます。「イキオ!こっちこい!」トーマス主任が、大きな声で呼びます。多少緊張しているが、日本代表(?)として足を引っ張るわけにはいきません。心の中でよっしゃ!と気合を入れてトレーラーに乗り込みました。足元は、踏みつぶされた実が散らばり、紫色に染まっています。木の実が出てくるステンレス製の出口からは、既にかなりの風が噴き出しています。「イキオ、気を楽にな、誰にだって初めてはある。」とリラックスする言葉をかけてくれました。「オーカイ、トーマス。これが初めての作業だ。上手くやってみせるよ。」と答えて間もなくすさまじい音とともに振動音がさらに高まり、その数秒後からドッとブラックカーラントの川が押し寄せてきました。主任が膝の高さにある袋からビニールシートを引っ張りだすと私に端を持てとジェスチャーしました。確かに強烈な風でシートは私の言うことを聞いてくれず、バタバタと震えながら、排出口から出てくる風にあおられてしまいます。なんとか一枚目のシートを敷いたが、案の定、かなりの実がシートの下にこぼれてしまいました。数トレー無駄にしたあとに、自分の考えを実践してみることにしました。

【補足情報】

「行動する」と「見るだけ」には大きな違いがある

多くの人が物事を理解する際に、観察することから始めます。観察は情報を得るための重要な手段であり、他人の行動や環境を理解するための第一歩です。しかし、観察だけでは得られない経験や知識があります。実際に行動することによってのみ得られるものも多く存在します。

行動することは、理論や観察だけでは理解できない実際の経験を伴います。例えば、スポーツや楽器の演奏などでは、理論を学んだり他人のプレイを見たりすることは大切ですが、自分で実際に体を動かしてみないと身につかない技術があります。同じように、職場での業務や日常生活のタスクにおいても、他人がどのように仕事をしているかを見て学ぶことは有益ですが、自分でその仕事を実際に行ってみることで初めて理解できる細かい手順やコツが存在します。

さらに、行動することで、失敗や成功の経験を積むことができます。失敗は貴重な学びの機会であり、成功は自信とモチベーションを高めます。行動することにより、自分の限界を知り、それを克服する方法を見つけることができます。このプロセスを通じて、自己成長やスキルの向上が促進されます。

一方で、見るだけではこれらの経験を得ることができません。観察するだけでは、理論的な理解や他人の経験を借りるに過ぎず、自分自身の成長やスキルの習得には限界があります。行動することで初めて、自分自身の経験として知識や技術が蓄積され、それが実際の問題解決能力や創造力の向上につながります。

総じて、「行動する」と「見るだけ」には本質的な違いがあります。観察は学びの一部として重要ですが、行動することで得られる経験や実践的な知識は、それ以上に価値があります。成功や失敗を通じて成長し、自分自身の限界を超えるためには、見るだけではなく、積極的に行動することが不可欠です。

続く…


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