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舞台「半神」 感想

舞台 半神
7月16日 12時
銀河劇場

作:野田秀樹
演:中屋敷法仁

舞台半神を観に行きました。
名作と名高いこの作品を自分が知ったのは、高校生のときでした。野田秀樹ファンの部長の影響で、稽古の一環として台本を読みあわせたのを覚えてます。
そしてそのあとに99年版の再演の映像をみて、うわーっ!って感情が高ぶったのも覚えています。

上京して、野田さんの半神が観たいなって思ってたんですがなかなか機会が合わなかったんですが、演出を中屋敷さんがやるときいて観に行こうと決めました。

中屋敷さんは劇団柿喰う客の10周年記念作品の天邪鬼で初めて観たんですが、皮肉めいた言葉の使い方が印象的で、同じく言葉を重ねることで意味を出していく野田さんのような印象的な言葉の使い方をする作品で観れるのが楽しみでした。

会場は銀河劇場。
螺旋方程式が鍵となる本作品で、螺旋階段のある銀劇で上演するのなんかいいですよね…!

感想を一言でいうと、美しい調和劇。そんな感じです。

野田さん演出に比べて、中屋敷さん演出だとだいぶ美しいに寄るなって感じがしました。違うベクトルで勝負してる感じですね。けどその美しさが音楽と調和して気持ちがいい。まさにうわの空って感じでした。主演2人と、バシッと決めてくれる数学者と先生、周りのガヤガヤ化け物たち、両親たち、それぞれがうまく機能しつつ、突然のメタで現実に引き戻される。でもそれすらも、2本の糸が絡み合うように調和した演出だったと思います。

半神の好きなシーンと言えば、シュラの「かみさまー!助けてくださいー!」です。99年版の神様ー!助けてくださいー!が最高に好きです。

このセリフは江戸川乱歩の孤島の鬼で、ひでちゃんが私に語る叫びなんですけど、私の中ではシュラが言うこのセリフの方が、より祈りに近いなって感じがして好きです。

ネルケさんでやってた孤島の鬼は初演DVDで、再演は劇場で見たんですが、ひでちゃんのこのセリフは少しファンタジックというか心ここに在らずな感じがしていて、半神のセリフを借りるとうわの空。だけど、半神でシュラがこのセリフを言うとき、生々しいほどに生きることへの辛さを感じるので、地に足がついているなって印象を受けました。

今回シュラも99年版同様、息を吸い込み声を荒げ「かみさまー!助けてくださいー!」って叫びます。そのときの音楽が圧巻でした。
アイドルの女の子からでる叫びにかぶせる、明るいような悲しいようなコンテンポラリーな曲。明るくたんたんとしたリズムである分、ひどく不調和でみてるこっちがうわの空に引き込まれるようなシーンでした。

野田さんとは違う方向性で勝負してた感のあるこのシーンですが、大事に演じてくださったんだなって感じて嬉しいです。

美しくかわいいマリアと、醜いシュラ。
私はシュラが愛おしいし、シュラの生まれたことが罪で生きることが罰的なことを言うのがとても好きです。
そして、先生は螺旋方程式の謎を、世界の果ての化け物に、など浮世離れのようなことを言いながら一番観ている私たちに近いところで寄り添いながらいてくれるのがとても好きです。

先生役のもっくんさん。
この難解で、意味のわからない、もしかしたら意味がないかもしれないこの物語の中で、誰よりも観ている人の近くにいると感じました。
ひとつひとつのセリフの中に葛藤や疑念や、恐怖や不信があって、それでもシュラに対して、マリアに対して真っ直ぐに接してくれる姿勢を演技で示してくれて、本当にすごい役者さんだなって思いました。
もっくんさんの舞台みるたびに、印象が変わるくらい千差万別な姿を見てる気がする。
すごい人だなぁ!!私はもっくんの歌が好きだよ!

あと、個性の際立たせ方が見事だったのが、老数学者と化け物たち。
数学者の先生はでてくると、舞台の空気が変わりますね。なにか知っているようで、自身も世界の果ての渦に飲まれているような不安定感が見事でした。
化け物たちはそれぞれがばっと出てくるのではなく、なんとなくの関係性でそれぞれを際立たせてたのが、調和を感じました。まるでお風呂の栓を抜いた時の渦のような感じですね。

最後に主演のシュラ役桜井玲香さん、マリア役藤間爽子さん

銀河劇場は、主演2人が乃木坂のアイドルさんのせいか男性客の方が多かったです。
乃木坂のアイドルさんたちは、初めましてで、アイドル舞台といえばハロプロの演劇女子部の印象が強いのでどうなるかなって思ってました。

お二人とも精一杯の表現をそれぞれが模索していた印象でした。特にマリア。
マリアはセリフがない部分から後半では、ストーリーを引っ張っていく存在になるのでそのメリハリの中でいかに表現するかが難しい役だなって思ってます。

美しくてかわいいマリアは、7歳までは神の子と言うように、幼く言葉を介さない、ただそこに在り続けることで、神秘的な存在でした。シュラが世界の果てに行き、マリアが先生とまた世界の果てを目指す時、言葉を介するマリアがまだ世界の果てに繋がる神秘的な存在であることを示すのは大変だったんじゃないかなって思います。
だから精一杯、模索している表現をなさっていたので、すごく真っ直ぐな方だなって思いました。

素直にぶつかっていくと、よりわけわからなくなるこの作品に対してマリアもシュラも真っ向勝負してましたね。
中屋敷さんの演出が、ある意味真っ向勝負を避けた演出をしていたので、いい意味で面白いアクセントだなぁって思いました。

全体的に、どのシーンを切り取っても美しいとなるような非常に美しく調和のとれた作品でした。演劇という総合芸術の強みを感じました。

最後に、高校生の時戯曲半神を読んで、読み合わせをしました。私は先生をやったけど、セリフが難しくて中身が全然噛み砕けなかった。
いわゆる意味がわからなかった。
今は内容も理解できるし、自分の感覚の中で昇華して、半神は自分にとって魂に対する祈りの話だなって言葉にできたのが嬉しい。10代で初めて触れた時に理解できなかった作品が、たくさん作品をみて考え続けて、理解できる感覚が自分の中に蓄積されたんだなって感じられる観劇体験になりました。