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プロフェッショナル・ファシリテーター

明日をもしれぬ闘争と絶望の中にいて、明晰で穏やか、希望にあふれた人間になるためにはどうればいいのだろう

シスコ、スターバックス、日産自動車などをクライアントとし、組織開発コンサルタントとして活躍するLarry dressler氏の著書。さいきん読んだ中で、もっとも実践的かつ体系的でピカイチな書籍でした。

ファシリテーションというとテクニックに重点がおかれがちですが、本書は自分の内面を探求することで、外の状況によりよく対処することを目指す。

普通の人なら困惑してしまうような異論や極論にオープンな姿勢を崩さず、不都合な事実や想定外の出来事もエネルギーに変え、グループが八方塞がりになった瞬間すらブレークスルーの前兆と考えられるようになるという自信を与えてくれる。

パート1「ファシリテーターの修羅場」では、炎上した会議に現れる炎の招待を明らかにし、どう対峙しそれを燃料に変え突破するのか示している。

炎の立ち上らないところには、殆どの場合無関心や抑圧が蔓延している。
意見の不一致から生まれる炎は、まさに問題を自分ごととしてとらえ、解決しようと真剣に取り組んでいることの表れであり、活力の源となる。

目に見える外の炎よりも厄介なのは、自分の中にある内なる炎の存在。常識や偏見のような思い込みが、ありのままに受け止めることを妨害し、自意識や強迫観念や評価されていないことで、怒りや恥ずかしさのような感情スイッチが入ってしまい自己防衛をしたり、優れていたい成功させたいというエゴが闘うか・逃げるかしか選択できないモードにしてしまいます。

自分の中に強い感情が湧き上がっていることを、客観的に認識することで、それに振り回されず、冷静な判断力を保つことができるようになる。

まずは、自分をみる自分の目をもつ、自分の感情の動きを受け止めることで、心が頑なな状態から開かれた状態になると主張します。では、さらに炎をよりよいエネルギーにかえるにはどうしたらいいのでしょう。

「私達が自分の輝きを解き放つことは、周りにも自分を輝かせていいのだという『許し』を与えることになる。自分が恐れから解放されると、他人も同じように解放される」 -マリアン・ウィリアムソン著書『愛への帰還』

自分が正解でありヒーローであるべきという衝動を振り払い、優れた能力や判断力のある感情を表に出さない完璧な人になろうとすることをやめ、自分のありのままを認め・許すことが、周囲の人を開放することになると。

避けて通りたいようなことを絶好の機会として真摯に向き合い、周囲への温かい気配りが安心感を伝え、目的を見失わず希望の光を灯し続ける存在であり続けるよう、学びつづけるトレーニングが肝心だと教えてくれます。

パート2「修羅場を切り抜ける6つの流儀」が本書のメイン。流れるように踊るダンサーのように、複数の流儀を一度に活用するものとのこと。

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流儀1は「自分の状態変化に敏感になる」こと。過剰に反応したり、不要に誤った感情をもち、感情に合わせてものごとを解釈したり、殻に閉じこもってしまうと、感情にそぐわない情報を受け入れられなくなる。

そこで自分の感情や理解は、実は正しくないかもしれない、と認識するために、以下の3つが提唱されている。

・自己観察力:自分と距離をおいて自分に優しくする。否定し抑圧された影の自己(ex.常に正しくありたい)に気付く
・全身センシング:体の変化は、感情の変化より気づきやすい。対処法を考える余裕を与えてくれる
・リフレクティブ・プロセッシング:信念や思い込みが正しいのかどうか考え直す。こだわりが自分をどう強化し、どう蝕んでいくのか。

流儀2は「いまここ、に集中する」こと。未来を変えられるのはいま、この場だけ、という事実をまず受け入れる。過去の後悔や未来への不安から解放され、視野を広げて目の前で刻々と起こっていることをしっかりと捉える。

流儀3は「オープンマインドを保つ」こと。可能性を信じて問い続け、他人の視点や知識を素直に受け入れる。緊張状態に忍耐強く向き合う姿勢を学ぶことで、それまでになかった新しいひらめきや行動への道が開ける。

オープンマインドというのは状態ではない。それは自分の味方や知識の限界を絶えず押し開き続けるという動きであり、相容れないと思えるアイデアを共存させ、話し合いの結果生まれてくる新しい可能性を受け入れ続けるという連続的なプロセスである

流儀4は「自分の役割を明確に意識する」こと。人は習慣に基づいて行動する生きものであり、かつ選択しながら行動する生きものでもある。目的を自覚し、必ずそれを達成することを約束し、生きものとして初期設定されている反応(や感情スイッチ)ではなく志に従い、自然体でリラックスしながらも、恐れを超えて一歩踏み出す意思をもつ。

流儀5は「意外性を楽しむ」こと。会議はこうあるべきだ、という思い込みに個室せず、流れに逆らわずにそれを楽しむサーファーのような姿勢。

”失敗”とは意図しなかった、または予期しなかった体験に、私達が勝手につけたレッテル -ケビン・キャッシュマン「リーダーシップ論」

流儀6は「共感力を養う」こと。人の尊厳を大切にする姿勢を貫くには、自分の中で認めたくない部分を他人の中に見出して拒否する「ユングの投影」を超えて、全員が努力し悩んでいることを忘れず寄り添うこと。

最後のパート3では、プロフェッショナル・ファシリテーターになるための、日常的におこなうトレーニングや、事前準備、修羅場への立ち向かい方、ふりかえり方を指南する。

人は認識できることしか変えることができないため、内面のみつめつづけ、無意識で設定している仮説や解釈、感情スイッチを意識の上に引き上げることが重要という。加えて、自分が実現したいことを自分らしい表現で前向きに宣言する「アフェメーション」も有効。

準備では、自分自身や参加者とつながり、より大きな世界ともつながることを提案する。心から感謝できるもの、心の拠り所を想起することで、自分たちの限界と同時に無限の可能性を見ることができる。世界中で同じような努力をしている仲間がいることを思い浮かべるのも有効だろう。 

修羅場では、感情を抑圧するのではなく、ただそれをじっくり観察せずになにもせず命名し、冷静になることを勧める。〇〇すべき、〇〇すべきでないといった価値判断を交えず、単に自分に問いかけるだけにとどめようとのこと。問うことで、新しい可能性の扉が開く、というのは面白い指摘。

”知らない””わからない”という状態こそが直感と創造性の源となる    -ウェンディ・パーマー著書『The Intuitive Body』

素敵なことばです。

ふりかえりでは、帰り道を「緊張感から解放され、普段の自分に到着する過程」と称し、その日のうちに余分なものを洗い流す術(入浴や散歩)や、参加者に言葉にして苦心や悩みを伝えて傷を癒やすことを勧める。劇場でパフォーマンスを観たり、満天の星をみることで自分の小ささとその重要さを体感することで、魂を癒すのも効果的。