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歌誌『塔』2023年10月号掲載歌「白のあぢさゐ好きだと思ふ」

みなさま、こんにちは。
『塔』2023年10月号の掲載歌。小林幸子選です。

もう夏が来てしまつたかのやうな風が吹きをり君の耳にも
池袋ジュンク堂書店にて緋色の少女漫画を購ふ
なすことのなければ布団に突つ伏して陽の陰るまでさよなら日曜
夏きざす新宿駅の南口みなうつむいて歩いてゆけり
西荻窪にしをぎの鍼灸院にかよふ夜白のあぢさゐ好きだと思ふ

『塔』2023年10月号p96

大事なのは載った歌よりも落ちた歌、と思いつつも…
掲載されるのはいつになっても嬉しいものですね。


紫陽花あぢさゐのお話。
花色は必ずしも一定ではなく、土の成分によって色が変わると言われますね。酸性度が強いと青くなって、弱いと赤くなるとか。
このように色が変化することから「七変化しちへんげ」と呼ばれることも。
これが災いしてか紫陽花の花言葉は「移り気」「浮気」などのマイナスな言葉があてられている場合があります。花に罪はないのにね。ちょっとかわいそう…。
今回の歌は白い紫陽花に惹かれて詠みました。白い紫陽花の花言葉は「寛容」だそうです。いいね。


そういえば、去年はこんな紫陽花の歌を作りました。こちらは藍色あるいは瑠璃色の紫陽花かな。

あぢさゐの便箋に書くほんたうの想ひたとへば雫のやうな

『塔』2022年4月号p150


私の好きな紫陽花の歌をいくつか拾っておこう。
以前どこかで読んだのですが、「いい歌を作るのも歌人の責任だが、いい歌を遺すのも歌人の責任だ」という趣旨の馬場あき子さんの言葉が紹介されていました。ほんとうにそう思います。
私のnoteにそんな力があるとは毫も思わないのですが(勝手に好きな歌を書くだけだし)、でもまあここに書き留めておくのも悪くはないのかなと。私自身の備忘のためにも…

あぢさゐの藍のつゆけき花ありぬぬばたまの夜あかねさす昼

佐藤佐太郎『帰潮』

廃駅をくさあぢさゐの花占めてただ歳月はまぶしかりけり

小池光『廃駅』

待つという時は藍色 六月の雨あじさいの花と私と

俵万智『花束のように抱かれてみたく』

今日の午後は明治神宮で開催される第44回全日本短歌大会の授賞式に行ってきます。
それではまた。

★『塔』2023年12月号に丸山恵子さんが評を寄せてくださいました。ありがとうございます。(2024.2.8追記)

なすことのなければ布団に突つ伏して陽の陰るまでさよなら日曜
<評>
体を休めることも有意義な休日の過ごし方ではあろうが、積極的に伏しているわけではない。レジャーや買い物に出かけることもなく日曜日は終わろうとしている。こんな日曜あるなとリアルに感じる。(丸山恵子)

『塔』2023年10月号

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