和訳(Je vous rends mon âme/1789 バスティーユの恋人たち)

1789, les Amants de la Bastille(1789 バスティーユの恋人たち)の全訳です。仏語話者というわけではないので、誤訳があるかも。見つけたらご指摘ください。

曲のタイトルの和訳は、日本公演時の邦題からとっています。

***

シャルロット「オランプ、オランプ!」
オランプ「シャルロット? ここで何してるの?」
シャルロット「ロナンだよ。あんたに会いたがってる」
オランプ「私は会いたくないの」
シャルロット「でも彼、あんたを愛してるよ。あんただって知ってるはずだ。あいつ、あんたに会えなかったら死ぬだろうって言ってた」
オランプ「遅かった!」
シャルロット「どういうこと? “遅かった”って?」
オランプ「シーッ!」
シャルロット「あんた分かってない。パリでは革命が起きてるんだよ! あっちこっちで、人民が軍と激突してる。覚悟が決まるなら、あんたを連れてってあげる」
オランプ「王妃は私を必要としてる。行けないわ」
シャルロット「意地っ張りだね、あんた! 引きずってでも連れてくよ、さあ!」
オランプ「放っておいて! あなたこそ分かってないわ」
男の声「この地位を手放すわけにはいかない、二度と。名誉は汚された…」
オランプ「行って! 見つかったらいけない、早く!」
ラマール「好調、好調、好調。」
ロワゼル「貴族は――」
ラマール「黙れ! 黙れ、役立たず! ――歌いましょ。踊りましょ。キスしましょ」
オランプ「ラマール様! ごめんなさい、本当に――私、急いでいて」
ラマール「“私、急いでいて”、“私、急いでいて”…落ち着きたまえよ、お美しいオランプ殿! 時間はあるはずだ、ちょうどそっちへ駆けていった女の子と話していたのだから!」
オランプ「彼女はキッチンメイドで、王妃のことでちょっと指示をしていただけよ」
ラマール「おや? 嘘だね!」
オランプ「本当よ!」
ラマール「嘘だ! 私は彼女のことを知っている――パレ・ロワイヤルに住み着いているみすぼらしい子猫だ」
ロワゼル「にゃー」
ラマール「黙るか死ぬか選べ。――貴女が彼女と何をヒソヒソやっていたかまでお話しましょうかな? 貴女は恋人のことに夢中だったから――」
オランプ「違います、誓って!」
ロワゼル「そうだ、そうだ!」
ラマール「ロナン殿は恐れ知らずの騎士で、貴女を責めることなく…。ははは! ――黙れ、黙らんか! ――しかし、終わった、全ては終わったのだ! 美しいロマンスは終結した!」
オランプ「何ですって? まさか彼を殺したの?」
ラマール「まさか、私がそんなことするわけないでしょう、愛しいひと。しかし彼は死ぬでしょう、いや、もう死んだかな。街では大量虐殺が起きている。しかし貴女を見ていると、オランプ、私たちの美しい愛の前に一点の曇りがあるようだ――私の手であいつを殺しておけなかったことが心残りで、だから貴女を代わりにしようかと思いましてね。彼の業の報いを、貴女が受けるんだ。私が夢見ていたキスを、してくれないかね、今ここで。奴らを見ろ、奴らを見ろ、私が言っているんだ! 愛らしいだろう? これは恨みではない、まさか、まさか! これはちょっとした損害賠償だよ――、もういい! ――ちょっとした損害賠償だよ、私の愛のね」
オランプ「ロナンは生きているわ。生きていると感じるの、私は、自分の命より、彼への愛を、とります! 地獄へ落ちろ!」
ラマール「なんて女だ! こうしてやる!」
アルトワ伯「ラマール! 随分と忙しそうだな」
ラマール「勿論です、殿下、勿論。ピュジェ殿と私は情報交換を、ええと、かく、かくめ…?」
アルトワ伯「ははは」
ラマール「殿下、お許しください! 確かにちょっとした共謀を、しかし殿下のためなのです!」
アルトワ伯「君はいつも私を魅了する、親愛なるラマール…」
ラマール「ええ?」
アルトワ伯「は、弱き者に強く出る才能があるなあ」
ラマール「おやめください、照れてしまいます」
アルトワ伯「非常に気持ちが悪い」
ラマール「ええ、勿論存じて…なんですって?」
アルトワ伯「君は金輪際来なくてよろしい。解雇する」
ラマール「なんてことだ、不可能です殿下!」
アルトワ伯「何だって?」
ラマール「不可能です、と」
アルトワ伯「ついでに降格もさせよう」
ラマール「しまった!」
アルトワ伯「そして、ピュジェ殿は――」
ラマール「どうか! どうか勲章だけは!」
アルトワ伯「ラマール、ラマール」
ラマール「勲章だけはどうか! 殿下!」
アルトワ伯「ラマール、離せ」
ラマール「勲章だけはあ!」
アルトワ伯「ラマール、離せと言ったのが聞こえないのか! ――そして、ピュジェ殿、君が何を企んでいるのか知らないが…」
ラマール「臆病者め!」
アルトワ伯「君に忠告しよう、私が何も見ていない間に職務に戻るようにと…」
ラマール「気を付けるべきだったな、ボンボンめ」
アルトワ伯「次は逮捕だぞ」
ラマール「もう美味い飯を食うこともない」
オランプ「殿下、後ろ!」
ラマール「地獄へのよい旅を! ――私? いや、不可能だ! 痛たたたた! 分かった私だ! ちょっと刺されただけ、いやガッツリ…。ああ、私のプリンセス、オランプ…慈悲を、どうか慈悲を…」
アルトワ伯「うわ、不格好だな。裏切りは者に甘い死を。ははは。どう思うかね?」

マリー「オランド、そこにいるんでしょう、棒みたいに突っ立って。何も言わないのね」
ポリニャック夫人「悲しいお知らせがあって。もう間もなく、お目にかかることもなくなります」
マリー「おいでなさい、どうか勿体ぶった言い回しはやめて。ヴェルサイユを去るのでしょう、いいことだわ」
ポリニャック夫人「私たちと一緒に来て。友達でしょう! 明日は来ないかもしれないわ」
マリー「それでも、私はお妃よ。ここにいなければ」
ポリニャック夫人「だめよ、だめです、殿下!」
マリー「お別れね、オランド。――オランプ、近くへ」
オランプ「殿下宛てのお手紙です」
マリー「フランス王妃に向かって隠し事なんて、悪い子ね。目を見れば分かる。この数日のことに、どれだけ心を痛めているか――。私が怖いの? 同じ痛みを味わっているとばかり…。あなたにも恋人がいるのね? どこのひと? 私たちの仲間? それとも、敵? ――あなたにとっては向かい風ね、私にも。街の火を見なさい。もし神が彼らに微笑むなら、私にはよくないことが起きるでしょう」
オランプ「殿下!」
マリー「運命は決まっているとしても、私がすべてを失うとしても、手の届く希望を無駄にしないで」
オランプ「私は――私は――」
マリー「あなたを自由にしましょう。何でもできる。彼のところに行きなさい」
オランプ「ありがたき、ありがたき幸せにございます」

[Je vous rends mon âme(神様の裁き)/マリー・アントワネット]

天に許しを祈りましょう
苦しんだたくさんの人々のために
冠の重圧に押しつぶされながら
私はただの母親だったのです

私が道を見失っていたから
天使たちは嘆いたでしょう
私が空虚な生き方をしていたから
神が報いを与えたのね

今になって、痛みを知った
主の思し召しに従います
もし有罪になさるなら
私の御霊をお返しします

ああ、私の子、私の宝物
空で眠っているのでしょう
後悔に満ちたこの心が見えるかしら
あなたをもっと愛するべきだった

なぜ主はわたしの祈りを
聞き届けてくださらなかったの
なんて重い罪を
私は地獄で味わうの

今になって、痛みを知った
主の思し召しに従います
もし有罪になさるなら
私の御霊をお返しします

今になって、痛みを知った
主の思し召しに従います
今はただ罪に耐えている
これが私の最後の祈り

お辞儀を

アルトワ伯「イヴ・マリア・ノエル・ペリック・トゥルヌマン。貴殿の貢献を鑑み、また我が友オーギュスト・ラマールのため――」
ロワゼル「オーギュスト! “国王陛下の名において! 陛下…オランプ、私たちの絆は何人たりとも裂くことができない! 警察だ! 警察だ! 素早く、効率的に! 黙れ、黙れ、黙れ、黙れ! 私こそ神だ…”」
アルトワ伯「よろしい。――辞令だ、この意味を分かっているのかね!」
ロワゼル「ちょっと刺されただけ、いやガッツリ」
アルトワ伯「貴殿を警察将校に任命し、国王陛下及び王太子の警護を――おい! 話を聞け!」
ラマール(肖像)「ロワゼル! トゥルヌマン! 私の可愛い、親愛なる手下たち! 素早く忘れ、素早く移る。私はオーギュスト神父だぞ、いいか? そうだ! 私はそう簡単に君たちを諦めたりはしないぞ、恩知らずどもめ! 恩知らずめ! 前に、後ろに、上に、下に、どこにでも、どこにでも、私はどこにでも、君たちが私のモットーを覚えている限り、記憶に潜んでいるぞ。“素早く、効率的に”。ははは。黙れ、黙れ、黙れ! 黙らんか! さっさと行け!」
アルトワ伯「語弊を恐れずに言うと…ラマールを恋しく思うレベルだ。奴は少なくとも…」