和訳(Maniaque/1789 バスティーユの恋人たち)

1789, les Amants de la Bastille(1789 バスティーユの恋人たち)の全訳です。仏語話者というわけではないので、誤訳があるかも。見つけたらご指摘ください。

曲のタイトルの和訳は、日本公演時の邦題からとっています。

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男「おい、ロワゼル! おい、トゥルヌマン! こっちだ!」

シャルロット「もうこれっきりだよ。ここにいて、私が呼んでくる。――こっち、柱の近くだよ。急いで!」
オランプ「王妃、数分しかありません」
シャルロット「王妃? 冗談じゃあない!」
オランプ「シャルロット! あなた約束したでしょ…」
フェルゼン伯「王妃」
マリー「アクセル、愛しいひと…立ち上がって。どうか戻ってきてくださいな! 寂しくて堪らない。私の周りは敵だらけ…ヴェルサイユでは、誹謗中傷ばかり受けるの。あなたの存在、あなたの優しい顔…あなたは私の唯一の希望よ!」
フェルゼン伯「そして絶望でもある、マダム。戻ればスキャンダルは避けられない。陛下のことをお考えになってください」
マリー「ルイを? 可哀想なひとだけど、彼のことなどどうとでもなるわ。考えられない! あなたを地方の司令部から解放して、呼び戻しましょう、それで…」
フェルゼン伯「だめです、あり得ない!」
マリー「あなたを愛することの何が問題なの?」
フェルゼン伯「明日の朝、パリを離れます」
マリー「離れる? あなたは私を愛していなかったのね。わかったわ…他にいい女性でもいるのでしょう」
フェルゼン伯「違う!」
マリー「あなたは嘘つきね」
フェルゼン伯「違います! 誓って!」
マリー「うそつき!」
男「うわ!誰だ?」
オランプ「王妃、行きましょう!」
フェルゼン伯「さようなら、マダム」
マリー「いつかまた会える?」
ロナン「おい、ブルジョワども! 別の場所でやれ、寝かせてくれ!」
フェルゼン伯「おい! 貴婦人に向かってその口の利き方はなんだ!」
ロナン「なんだ? ここがどこだか知ってるか?」
フェルゼン伯「私の理性を試しているのか?」
ロナン「あんたは男だろ!」
オランプ「だめです、あなた、だめ!」
ラマール「警察だぞ! 秘密警察だ!」
オランプ「シャルロット、逃げて!」
ラマール「素早く、効率的に! その場を動くな!」
オランプ「手を貸して!」
ロナン「なんだ!?」
オランプ「離して! 離して! 強盗!」
ラマール「う・ご・く・な~! うごくな! 全員だ! うごくなよ! う・ご・く・な! ――よし、それで、何があったね、オランプ嬢!」
オランプ「ええーと、ラマール様」
ラマール「パレ・ロワイヤルで夜中に一体何を? 私はすぐに到着したように思うんだがねえ」
オランプ「ええと、私たちは…私たちは友達で、夕食に行った帰りで、それで…」
ラマール「貴女の友達? ほうほうほうほう、なるほど」
オランプ「それでこの男が私を襲ったんです!」
ラマール「ほーう」
ロナン「俺はベンチで寝ていて、叫び声で目が覚めたんだ。男と女が言い争っていた」
オランプ「いいえ、それは嘘よ! こいつは私たちをつけてきて、それで殴りかかろうとして…バッグを盗もうとしたの!」
ロナン「キチガイめ! こいつのいうこと、聞かないでくれよ」
ラマール「動くな、動くな。すぐだ、ロワゼル、こいつの身体を調べろ! 調べろ! 今すぐだ」
ロワゼル「オーギュスト様! オーギュスト様! これを!」
ラマール「“オーギュスト様! オーギュスト様! これを!” 寄越せ、鳥頭! 無能! ――さて、読もう。“自由を求める人民にとって、共和国こそが唯一の政府である。もはや王はおらず、もはやとっ…特権階級も存在しない”? おお、なんてこった! お前はいわゆる…なんていうんだ? 共和派か! ははは! 名前を名乗れ」
ロナン「もうたくさんだ」
ラマール「“名を名乗れ”。聞こえなかったか?」
ロナン「ロナン・マズリエ、農民の息子だ! 共和国万歳、暴君と密告者に死を!」
ラマール「よろしい! 罪状は十分だ! バスティーユの牢獄でもな! 連れていけ!」
ロナン「離せ!」
ラマール「黙れ! うるさいぞ! ――オランプ嬢、ここはそういうところです。貴女のしたことに感謝しましょう」
オランプ「やめて、意味がないわ」
ラマール「まさか! これは出世に大いに役立ちますぞ! 貴女のお父上はバスティーユ勤務の少尉でしたな。 刑務所長も、貴女のことを知って誇りに思うでしょう。“なんて可愛らしいひとだ!”と。国家の安全に奉仕したのです。おっと、彼女はどこへ? ああ、ここにいた。オランプ嬢…オランプ嬢、貴女と私で、いずれバスティーユを…。私の部屋で、ろうそくと…ああ、三回目まで何もしません! それからすこし甘いワイン…。貴女に愛の言葉を囁きましょう、私の女神…愛の言葉を…。――ああ、怖がらせてしまった。私は自分を許せない。でもせめて…。おおっと、クソ、彼女は実に上手だ、この女め…。どうか聞かせてくれないか、せめて、ッアーー! アナタノオトウサマニカンシャシタイトオモッテーー! 素早く、効率的に! 行くぞ!」

[Maniaque(耐えてみせる)/ロナン・ペイロール]
※DVDとサントラで歌詞が異なります

(ペイロール)
父親の死から学ばなかったのか?
自分の領分を自覚することもしなかったのか?
絶対的な権力に挑むような真似はやめたまえ
警告だ、これは警告だ

何のためにしみったれた不幸にしがみついているんだ?
陛下のご気分を損なうことは、神を侮辱する行為だ
失われたものに固執した結果がこのざまだ
お前は捕らわれた

(ロナン)逃げなければならない

(ペイロール)独房はお前の頭の中にある

(ロナン)復讐の炎に身を捧げよう

(ペイロール)あの女はお前の檻の鉄格子

(ロナン)
ああ、眠れない 神経が昂っている
ああ、まるで狂人だ

(ペイロール)
お前の作った小冊子は恥ずべきものだ
復讐しようとするならば、収監させるだけだ
陛下はこの世の始まりから世界を導いてきたお方
お前は貧しく無知だから知らないだけだ

(ロナン)逃げなければならない

(ペイロール)独房はお前の頭の中にある

(ロナン)復讐の炎に身を捧げよう

(ペイロール)あの女はお前の檻の鉄格子

(ロナン)
ああ、眠れない 神経が昂っている
ああ、まるで狂人だ

(ペイロール)逃げなければならない

(ロナン)独房はお前の頭の中にある

(ペイロール)復讐の炎に身を捧げよう

(ロナン)あの女はお前の檻の鉄格子

(ロナン)
ああ、眠れない 神経が昂っている
ああ、神経が擦り切れそう 何もかも上手くいかない
ああ、まるで狂人だ

ラマール「バスティーユの近くに来たぞ。年代物の刑務所、ロナンのような革命主義者の墓場だ。伯爵の許可さえあれば、刺し殺してやったものを。生気のない頬の下には案外、…おおっと問題発言! 階段だ! 位置につけ! ボケボケするな! 気を付けろよ、階段になれ。――顔は真っ白だが、中身はまだ青い。革命家ロナンは終わりだな。早くしろ、早く! ――さて、経緯を説明しよう。今朝、ヴェルサイユで、アルトワ伯は、つまり私の主人であり、故に陛下のご兄弟であらせられる方は、私を執務室へ呼び出した。私は文字通り飛んで行って…そしてオランプを見つけた。お前、オランプ。アルトワ伯は、冷たく、しかし烈火のごとく怒っていて、私のオランプは震えていた。はい、怒れ。いいぞ。“何をしていたんだね、間抜けな小娘が。パレ・ロワイヤルで密会でも?”“ああ殿下、お慈悲を、弁解させてください”。私は何を言っているのか分からなかった。“私はただの世話係です。王妃のため、ポリニャック夫人に従っただけです”。」
アルトワ伯「殿下のためだと? 危険な革命家が見ている前でか? スキャンダルになったらと考えなかったのか? もしかして王妃の失墜を望んでいた?」
ラマール「“殿下、なんてことを! 革命家のことは、私はちっとも知りませんでした!”」
オランプ「どうか、アルトワ伯爵さま、お許しください!」
アルトワ伯「私の許しだと? まさか! もしおまえが王妃のお気に入りでなかったら、この手で仕留めて、あいつのように投獄してやったものを!」
ラマール「マズリエ!」
アルトワ伯「マズリエのように!」
ラマール「ロナン・マズリエ!」
アルトワ伯「ロナン・マズリエ! ありがとう」
ラマール「どういたしまして」
オランプ「アルトワ伯爵さま、彼を釈放してほしいのです。彼は無実です、私が嘘を言ったのですから!」
ラマール「いやしかし…待て、今なんて言った? 嘘だと? そんな馬鹿な!」
オランプ「確かに、王妃をアーケードの下へお連れしたのは私です」
ラマール「なんてこった」
オランプ「そして私はフェルゼン伯爵との密会の約束を取り付けました」
ラマール「だめだ、止めてくれ、愛しいひと! ――そんなことを伯爵に話したら…」
オランプ「それから、私は、私は…」
ラマール「彼女はなんて言ってる? 私のミスか? くそ、会話が遠い」
オランプ「だから、彼は何も知らない、何も見ていないんです」
ラマール「ええと、ちょっと、殿下、アルトワ伯さまと美しきお嬢さん。そう、あの時は暗くて、私たちは何も見えなかった。全く何も! 私は王妃殿下がいらっしゃることにすら気づかなかった。あのバスみたいにバカでかいカツラにでさえですよ! だから、ええと、きっと他の人間も…」
アルトワ伯「ラマール! 下がっていろ、話がややこしくなる」
ラマール「問題はありません。目撃者はいないのですから」
アルトワ伯「あの男は、口を開くだけで、王家を破滅に追い込むことができる。これを届ける…」
ラマール「おっと、奴らは素早いですな。実に訓練されている」
アルトワ伯「バスティーユの副官に届けろ。ロナンは脱走を図るに違いない。今夜だ」
ラマール「お任せください、殿下。素早く、効率的に」
アルトワ伯「いいだろう。そのために金を払っているんだからな」
ラマール「たっぷりいただいております!」
アルトワ伯「愚か者!」
ラマール「ありがとうございます! ――どっちがだ。おい、お前らは私にやり返そうなんて思うなよ! 約束だぞ」
オランプ「ラマール様!」
ラマール「なんでしょう、美しいひと」
オランプ「伯爵はあなたに何と? あの男は、ロナンは…話してくれるわね?」
ラマール「セーヌで川遊びなどいかがですか、上品ですねえ」
オランプ「そんなこと言わずにどうか!」
ラマール「まさか、彼に同情でも?」
オランプ「いいえ!」
ラマール「だと思った。いや、もし貴女が心を痛めているなら、オランプ嬢、私は大変嫉妬しなければならないところだった。ちょっとでいいからキスをしてくれないかね?」
オランプ「信じていないでしょう」
ラマール「そのとおり! 失礼、真面目な話、私は貴女のことばかり考えていますよ。昼も夜も…特に夜ですが…。――知っていると思いますが、私の出自はそれなりによくてですね。すぐに侯爵になるでしょう、貴女も、ねえ貴女、貴女。オランプ・ラマール、バスティーユのプリンセス、なんていかがですかね。――おおっと、勿論冗談ですよ」
オランプ「バスティーユよ!」
ラマール「ええまったく、バスティーユですな。ええ」
オランプ「行かなければならないのでは? 油を売っている暇はないんじゃなくて?」
ラマール「その通りです。何よりもまず義務を果たさなくては。できるだけ早く、貴女のもとへ帰ってきます。私の愛よ。見送りのキスは?」
オランプ「いいえ」
ラマール「ダメ? ほんのちょっとも?」
オランプ「ダメ」
ラマール「ダメか。何だったらいい? えーと、食事だったらどうだ! プロヴァンスの牛肉のシチュー!」
オランプ「嫌!」
ラマール「だめか、彼女はシチューが嫌いなのかね。――おい、気を付けろ! 間抜けどもめ! 急げ、バスティーユにだ! 仕事だぞ!」