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『ゲームセンター文化論』の紹介

今回は,『ゲームセンター文化論―メディア社会のコミュニケーション―』(加藤裕康,新泉社,2011)についてご紹介します(以前,この本の書評を書いたことがあったのですが,それを載せていたWebサイトがなくなってしまったため,こちらに移すとともに,改めて書き直して公開しています)。


どのような本か

 2000年前後のゲームセンターとそこに通う若者たちのコミュニケーションを考察し,ゲームセンターのフィールドワーク研究をまとめた書籍です。ゲームセンターの中には,利用者が自由に書き込んで他の利用者との交流を楽しむコミュニケーション・ノートを置いていることがあります。本書はこの分析や社会学的なインタビューの手法を用いて,ゲームセンターの文化にアプローチしています。


ゲームの文化的側面を記述した資料

 ビデオゲームの誕生から現在に至るまで,娯楽施設のひとつとして,ゲームセンターはその形を変えながら,私たちを楽しませてきました。2000年前後と現在を比較すると,地方を中心とした小規模店舗の減少やビデオゲーム筐体数の減少をはじめとして,いくつかの変化が見られています。本書の内容は早くも古くなりつつあるわけですが,ある時点での文化に関する記述が歴史的資料として重要になってくることを考えれば,本書の資料的価値は大きいと思われます。ゲーム研究の書籍のひとつとして重要であるという点は,多少古くなっても変わっていないといえます。

 時代によるゲームセンターの比較というのも面白いかもしれません。2000年前後のゲームセンターの様子は,テーブル筐体で有名な『スペースインベーダー』が流行していた頃とも異なっているようです(とくに,風営法施行の前と後では大きく違うといわれています)。『スペースインベーダー』が流行していた頃にゲームセンターに通った経験のある方は,自分の知っているゲームセンターの姿と比べてみると,読み物として面白いと思います。


 私はゲームセンターでアルバイトをした経験があります。客としてだけではなく,店員として現場にいたことで知ることができたことは多いと思っています。店員の仕事は店内の巡回と掃除が多いですが,対戦格闘ゲーム大会の進行を任されたりした経験もあります。平日と休日,午前・午後の早い時間と夕方・夜の違い,客どうしのトラブル,機器のメンテナンスの大切さ,人と人とのコミュニケーション,ゲーム種別の客層の違いなど,ゲームセンター特有の文化を外側(客)と内側(店員)で見て良い経験になったと思っています。個人的には,本書が描き出すゲームセンターの姿が自分の経験と重なり,本書の実証的なフィールドワーク研究に独特の面白さを感じました。

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