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【詩】午後の告白は優しさに満ちて

古い標本箱には干からびた何か。

かつての栄光だな。
在りし日の夢の残骸だ。
あなたは吐き捨てるように言ったけれど
曇ったガラスを撫でる指は優しかった。

実を結ばない何かがあふれた世界の中で
時を止めるすべを知らぬまま。
けれど想いの結晶のようなそれはみな、
ただただ喜びに満たされていた。

どんなにいびつ無様ぶざまでも
その熱ほどの美しさはこの世界にはないのだと、
振り返ったあなたは微笑んだ。
切なさが午後の光の中に溶け出していく。

だからこそ、私たちは生きていくのだろう。
限られた命を愛おしむのだろう。

あなたが小さな子どもみたいに泣き出しそうで
私はそっと手を添え頬を包みこむ。

だからこそ、一緒に生きていくのだろう。
寂しさを分けあい感じあうのだろう。

何一つ変わらなかったとしても、
何一つ生まれなかったとしても
それでいい。

そこにあなたがいることが、
ここに私がいることが、
世界の美しさを作り上げていくのだから。

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