
【CCHパートナーズ会員限定】第2回 C&CHカンファレンスを開催しました(後編)
2024/11/27はC&CH構想および当協会の取り組みに関心を持っていただいているC&CHパートナーズ制度の加入者限定のWebセミナーC&CHカンファレンス2024を開催いたしました。前編・後編の2回に分けてのカンファレンスレポート、今回は後編をご紹介いたします。
※誌面の都合上、講演内容を一部省略していることをご了承ください。
カンファレンスレポート前編はこちら
第二部 シンポジウム
C&CHカンファレンスの後半、第二部はシンポジウムとして、地域へのアウトリーチや地域との協業によって、様々な地域医療や地域活動を実践されている3名の演者のみなさんからのお話しいただきました。
モデレーターは藤田医科大学 連携地域医療学 助教/豊田地域医療センター 総合診療科 在宅医療支援センター長の近藤先生にお願いしました。
1.熊本県甲佐町 谷田病院の取り組み
1人目は熊本県甲佐町の医療法人谷田会 谷田病院の事務部長である藤井将志さんからのお話しです。
藤井さんは熊本県甲佐町(人口10,000人、高齢化率40%)の99床の谷田病院の事務部長と一般社団法人パレットの理事をされていて、この谷田病院さんは病院が行う「まちづくり」の取り組みとして注目されています。

地域包括ケアシステムでは医療・介護・福祉・健康をいかにピカピカにするかが語られていますが、もっと生活に密着している住まい・教育・働く場・食などが真っ暗だったら将来が見えてこない。ということで、医療法人に加えて一般社団法人パレットをつくって「人づくり」「まちづくり」にも取り組まれているとのこと。その取り組みの幅は驚異的です。
ある時、町から塾が無くなってしまったらしいのですが、その時、地域の学力が下がる、この地域から医学生が輩出できなくなる、つまり将来まちで働く医師がいなくなる、、、という危機感から塾(夢の扉)の経営を始められたとのこと。

他にもお看取りをした方が所有されていた古民家を再生したホテル経営(NIPPONIA 甲佐 疏水の郷)、同じく古民家を再生したイタリアンレストランと寮、グランピングのキャンプ場の運営、病院食を100%地産地消の無農薬に変える「やつだ農園」、江戸時代からつづく伝統施設「甲佐やな場」の再生、病院やお祭りで売るために開発した「健康黒豆茶」「にんじんドレッシング」など、いまは「ふりかけ」を商品開発中ということです。このような活動をしていく中で、学生さんや海外の方が甲佐町にたくさん遊びに来てくれるようになったとのことでした。

今はまちの住民とご高齢の方、障害のある方が入り混じれる公園型複合施設KosaKOUENも計画中とのことでした。多くの公園が危険を回避する目的でルールをたくさん作っている中で、このKosaKOUENは「絶対ルールをつくらないこと」をルールにした公園になるようです。

お話の途中からは、病院の話なのか何なのか混乱してしまうような病院が行うまちづくりのお話でしたが、人口減少していく地方は日本中にあって、藤井さんがおっしゃるように「地域包括ケアシステムだけを良くしていてもその地域が幸せにならない」ということは、私たちも考えていく必要があることを再認識しました。
2.2040年に向けた地域医療「実践!下町地域活動」
2人目は東京都台東区の同善病院を中心にコミュニティナースとして活躍されている当協会にも所属している小笠原彩花さんのお話でした。
小笠原さんは双子のお子さんを育児中です。まだお子さんが小さいときに新しい地域に引っ越したこともあり、頼れる人がいない時期があったそうです。そのときに「社会的孤立」といわれる孤独感をご自身で実感されました。
これまで看護師・助産師として働いてきた中でも、社会的孤立状態にある患者さんをたくさん見てきた経験もあったので、健康は医療だけでは作れないから地域の力が必要だと考えるようになりました。そして、「病院と地域が融合して循環をつくる」というビジョンのもとで同善病院での地域活動を行っています。

(ワクチンや健診を除けば)病気にならないと病院に来ることはないですが、地域活動を通して病院と地域がつながって医療の敷居が下がる。そして、医療の敷居が下がることで住民のヘルスケアリテラシーが上がる。あるいは、地域の方々がつながって地域に支え合いの循環ができることを目指しておられます。
その取り組みの一つが院内のコミュニティスペース「みのるーむ」の運営です。手探りで始めた「みのるーむ」のなかで参加された住民の方からの聞こえてきたのは「この地域は区境(台東区と荒川区)の地域で集まれる場所がない」という声、ニーズでした。調べてみると、台東区の単身高齢者の割合は「42.2%」で、都内平均の「26%」に対してかなり高い水準であることから、「みのるーむ」も目的を地域の集まれる場所、つながる場所にすることが目標になりました。現在は週に2~3日、健康体操、地域の方が主催の健康麻雀・将棋道場、モルックをする会、喫茶タイムなどが開催されているようです。
入院患者さんに対する地域資源を活用する取り組み(社会的処方)も行っています。医療だけでは解決しない課題を抱えている患者さんには、週1回行っているソーシャルカンファレンスの中で取り上げて、地域に利用できる資源はないかを検討します。ない場合は情報を持っていそうな方に相談したり、自分たちで調べたり、地域の資源と一緒に新しい取り組みを共創することも考えるようです。

今後は、地域の住民の方々がもっと参画できるようにすること、ボランティアを活用すること、他にも同善病院内でコミュニティナースの育成をすることや、地域活動の様々な面からの効果測定、他のコミュニティホスピタルで展開するためのノウハウの蓄積と人材の育成なども計画しているとのことでした。

同善病院で2年前にゼロから始めた取り組みですが、いまでは地域に必要な社会資源に成長する様子が感じられました。始めた当初は、病院内で賛同する職員は少なかったようですが、興味関心のない職員や反対意見を持っている職員も巻き込んでこの地域活動を病院全体で行っているというお話でした。
3.横浜市寿町から見つめ直す 地域医療のカタチ
最後の演者は横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻准教授、寿町健康福祉交流センター診療所の金子惇先生です。
金子先生は17年間の医師生活の中で、3年間離島での診療、大学院での地域医療の研究など、地域医療/プライマリ・ケアのフィールドを中心に活動されてきました。
金子先生は「地域医療の関わり方」について、
「他の人がやりたがらないけど、自分(や自分のチーム)はやりたい」ところが関わりどころ
つまり、地域のパズルの欠けているピースに自分(自分たち)をハメ込むイメージとのことです。

例えば、離島診療所での取り組みでは、1~2年目は地域の人達に信頼してもらうために診療をしっかりやることからスタートして、
・島内消防団・住民向け心肺蘇生講習会
・学校医として保育所や小学校での講習会
・任意予防接種の費用助成を自治体に交渉
・アルコール依存症専門医と連携して、島内の講演企画やオンライン面談実施
・島で最期まで暮らすことをテーマにした地域のステークホルダーとのディスカッション
このような取り組みを一つずつ積み上げてこられました。
次に働かれた都市型診療所でも同様のパズルのピースをはめる取り組みに注力されました。
・医師会や医師会の委員会への参加
・地域のリソースをつなげる団体とのコラボレーション
・地域の団体が制作する子ども向け健康情報発信ウェブサイトへの寄稿
・地域の団体とコラボレーションして小さい子供のいる保護者向けの勉強会開催(子供の洋服交換会などで)
・地域の団体とコラボレーションして「暮らしの保健室」開始
・地域の団体とコラボレーションして診療所2階でこども食堂開始
などなど。自分たちだけでなく、地域の団体とコラボレーションと言う形で活動を拡げているのが印象的です。
現在、勤務をされている横浜市寿町は三大ドヤ街といわれていた簡易宿泊施設が集まる街で、200m×300mのエリアに5400人が暮らしています。住民の高齢化率55%以上、90%以上の方が生活保護です。
横浜市からの業務委託を受けて運営しているこの診療所は、以前は非常勤の先生含めて2名の医師で1診体制で診療されていて働き手が見つかりにくい診療所だったのですが、金子先生にとっては「地域が限定されている」「幅広い疾患・社会的問題にも関われる」「診察室だけでは対応できない地域課題がある」という点で、プライマリ・ケアができる働きたい場所に見えたとのことです。

そして、この地域の継続的な課題であった医師確保の問題についても、他にはない特徴があるこの地域だから、他の医師を呼べると感じられたようです。
・1診を2診体制に変更
・迷ったら気軽に相談したり、休める体制・雰囲気に
ということからスタートし、福祉や地域活動が活発な寿町の団体にも手伝ってもらって、学生や研修医などが学びに来られる場をつくって来られました。見学者が来ることによって、また見学者からの学びのコメントから、新たな街の発見があったり、診療所で働く職員にとっても励みになったりして診療所自体も活気が出てきたようです。
実際、活動を始めてこの1~2年間で、医師数は2名から非常勤を含め8名体制になり、見学者はゼロから年間73人以上となっています。地域の欠けたピースを埋めることで、ケアの向上と人材確保につながった事例だと言えるでしょう。

他にも金子先生が携わっている地域医療に関する活動の紹介がありました。
一つ目は、英国発祥で現在は多くの国や地域に広がっている取り組みである「Deep End Kawasaki/Yokohama」。社会経済的に厳しい状況にある方が多く住む地域におけるプライマリ・ケア医の連携の取り組みです。
もう一つは、都市部の社会的課題を解決しようとしている医療関係者の取り組みをあつめた「Kanagawa Good Primary Care」。取り組みの共有を通じて、いろいろな地域での活動の手がかりを見つけることができます。
4.ディスカッション
3人の演者の皆さんからの講演の後は、参加者からの質問などを中心にディスカッションが交わされました。その中のやりとりの中からいくつか抜粋して紹介します。
参加された医学生さんからの質問
「今学生で地域のコミュニティを作ろうとしています。しかし、行ったアンケートではニーズはわからず、コミュニティに出てこない方に来てもらえない、継続性が困難であることなどの課題も多い状態です、学生にできそうなアイデアや工夫などを教えてください」
小笠原彩花さんからの回答
なぜ自分がコミュニティを作ろうと思ったのか、などその活動をやろうと思ったのかをもう一度考えてみるのが良いかもしれません。やりたいと思ったはとりあえずやってみるのが良いと思います。自分のやりたいことと地域のニーズの間が地域活動だと思います。
藤井さんからの回答
実際に甲佐町で行った取り組みの話なのですが、大学生たちからの発案で「27才の自分に手紙を書こう」という企画をやったことがありました。自分のことを見つめ直したり、いろんな街の人とたくさん会って話をしたりして、今までの人生を振り返って最後に27才の自分に手紙を書いたりしたりしました。そんなことをしていると勝手に街の人と混ざっていくようなことが起きたりしました。こんな風に軽い感じでも取り組んでも、街にとって良いことが起こっていくと思います。
金子先生からの回答
うまく行っている、うまく行っていないを問わなければ、地域にはすでにいろんな活動をしている人がいますから、一度そういった活動に混ざってみたりすると、いまの地域に足りないことや、その取り組みの課題が見えてくると思います。そのうえで、その取り組みを盛り上げるたり、足りないことに取り組んでみたりするのも良いのではないでしょうか。頼まれたら、なんでも断らずにやってみることも大切だと思います。
モデレーター近藤先生からの質問
色々な病院でこれから地域活動をやってみたいと思っている方になにかアドバイスをお願いします。
小笠原彩花さんの回答
やりたいことはやって、楽しんで、地域活動をやってみてください。ぜひ一緒にやっていきましょう。
藤井さんの回答
失敗だけは人一倍しているので、事前にアドバイスします。必要であればぜひ連絡してきてください。
金子先生からの回答
今日話にあったような大きなことをイメージすると難しいと思ってしまうかもしれませんが、基本的には普段の診療とつながっているものだと思うので、普段の診療プラスアルファでできることから、あるいは既に地域で取り組まれているものに混ぜてもらうところから始めてみてください。
シンポジウムをみなさんのお話を聞いて、3人の演者の方全員に言えることですが、特に構えて取り組まれているわけでもなく、普段の仕事と地続きにある問題意識に対して、「この地域が良くなれば」という思いがあることを前提に「もっとこうだったらいいな」という善意、興味にもとづいて自分のできることから一歩目を踏み出していらっしゃいました。
すでに地域で活動をされている方へのリスペクトを忘れずに、一緒に取り組む、うまくいかなかったら止めたり、やり直したりを繰り返して地域を混ぜていく、、、そんな風に、演者の皆さんがやりたいことに軽やかに取り組まれて、そこで楽しんで活動されているのがとても印象的でした。
演者の皆様、モデレーターの近藤先生、誠にありがとうございました。
第2回 C&CHカンファレンス2024 アンケート結果
最後に、今回のC&CHカンファレンスにご参加いただいたアンケート結果を共有いたします。
概ねよい評価をいただけてホッとしていますが、各ご意見からは、成功事例などの結果を聞くだけではなく、挑戦している過程の話が聞きたいということがわかりましたので、今後のセミナーや取材記事の中では「過程の話」についてもしっかりと取り上げていきたいと思います。
来年もC&CHの理念と取り組みを伝える「C&CHカンファレンス」を開催してまいりますのでお楽しみにしていてください。
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