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プランニングの「型」づくり【紹介編】

空手道に「平安」という型があります。型とは、突き・受け・蹴り・払いといった空手の基本技によって構成された一連の動作のことで、学ぶことで必要な体捌きや立ち振る舞いが身に付けられるものとされています。平安という型名も「体得すれば平穏無事に過ごせる」というのが由来と言われ、技を磨くために合理的な方法を突き詰めた集大成が「型」として具現化されていると考えられます。

結果を出し続けているプランナーやコピーライターの方々のプレゼンや企画書を拝見すると、根底にその方が持っている型のようなものが浮かび上がってくることがあります。商品や業種によって課題は様々ですが、どんなジャンルでも成果を上げられる人というのは、自分の中に基本の型を持っており、それを応用することで自分の強みを活かしながら領域を広げられているように思います。

以前、とあるプランナーの大先輩が自分の実施した企画を事後に構造化(モデル化)していることを教えてもらってから、型づくりというのを意識するようになりました。その方は構造化することで、成功・失敗したポイントを客観的に捉えたり、別案件で企画の方向性をオリエンする際の資料として活用されており、目から鱗の思いをしました。型をつくることで企画発想のプロセスに再現性(応用性)を持たせることができ、型を増やしていくことで発想の切り口の幅を広げることができるのだなと。

いわゆるフレームワークと言われるものは世の中に数多あり、思考のプロセスも人それぞれあるかと思いますが、プランナーとしてこれまでの経験を通して「すぐに実践で使える」4つの型例をできるだけシンプルに、直感的に分かりやすいようにご紹介します。発想の一歩目として参考にしてもらいながら、自分なりの型を見つける一助になれば嬉しく思います。

02_型一覧

①インストール型

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例えば、プロモーション業務に関わる人ならここ数年で必ず一度は考えたことがあると思われる自社商品へのサブスク導入。それはインストール型に当てはまります。ソフトウェアやコンテンツ業界での成功を受け、外食産業をはじめ多くの企業でもトライされていますよね。ただ、途中で断念する企業も多い中で金の蔵『プレミアム飲み放題券』は上手く継続されています。定額制を売りにしながらも、客単価を担保するために追加注文させる仕掛けやロイヤリティを高めるための自社アプリへの誘導など、周辺の設計をきちんと組まれていることがポイントなのではと思います。取っ付きやすい手法である反面、仕組みの側だけではなく明確な目的や本質的なニーズを捉えていないと効果は発揮できません。
他の異色な例として、マキシマム ザ ホルモン『フランチャイズ制導入』は前代未聞の試みとして話題となりました。バンドの2号店をつくって活動させることで物理的なライブ本数を倍にするという目的でしたが、公開オーディションにしてファンを巻き込んでいくことでPRとしても機能させていました。ロックバンドにその対極とも言える商業システムをインストールするという発想にしてやられました。

②コラボレーション型

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コラボレーションといえば漫画や映画、アーティスト等の人気コンテンツとのタイアップ商品やキャンペーンが真っ先に思い浮かびますが、近年は企業同士のコラボも活発に行われていますよね。しかし一方的にコラボ先の力を借りるだけでは、例え効果が出たとしても一過性のものに終わってしまいます。その点、異なるジャンルのコンテンツとのコラボを次々と繰り出している『ビックリマン』は、継続的なコラボ施策そのものをブランド戦略の一つに位置付けることで、それぞれのファン層を上手く取り込む新規顧客の獲得に成功しています。
また、吉野家さんも様々な角度でのコラボを活用されています。ファミリー層向けの『ポケ盛り』、女性や健康志向層向けの『ライザップ牛サラダ』など明確なターゲット戦略に基づいて行われているものや、はなまるうどんとの『コラボ定期券』やSNSからはじまった『外食戦隊ニクレンジャー』などブランド・企業間コラボで話題を提供しています。

③スライド型

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固定観念をずらすことで新しい活路を見出すスライド型ですが、マクドナルド『夜マック』はとても分かりやすい事例です。ランチタイムに比べて売り上げの落ちる夜の時間帯に、客単価と来店客数を拡大させる特別メニューを提供することで成果を上げられています。
企業視点だけではなく、一部の顧客の用途をずらした使われ方にスポットライトを当て、それを広げるやり方もあります。日清食品『10分どん兵衛』のようにSNSの声を拾い上げた企画や、BAND-AID『#️スニ活』のように「就活は革靴を履かなければならない」という声なき声に目を向けて社会の意識そのものを変えていこうという意欲的な取り組みも行われています。

④エクスパンド型

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商品やサービスの機能やコンセプトを拡張して、新しい価値や役割を提唱するエクスパンド型。ユニクロ『はじめてのコーディネート体験』は、どうしても親の好みや要望で決めてしまいがちな子どもの服選びをすべて自分でやらせてみることで、子どもに考える機会を提供し、親も知らなかった我が子の一面を発見できるという企画ですが、単なる「服を買う場」ではなく「服育の場」という文脈を加えることで店舗の価値を広げています。
伊右衛門 特茶『特茶スマートアプリ』も、特茶というブランドをプロダクトからサービスへと拡張しています。体脂肪を減らすという機能によって、健康で活動的な生活の実現までをサポートするという意志を「特茶生活」というワードで表現。BOSSは「働く人の相棒」というコンセプトでしたが、特茶は「健康生活を目指す人の相棒」といったところでしょうか。(まさしく『特茶バディ』というキャンペーンもはじまっていました)
サービス開発といった大掛かりなものでなくとも、受験生の応援アイテムとして定番化しているキットカット『#キット想いとどく』や、ポッキー『Share happiness!』のように、お菓子の情緒的な価値を広げてコミュニケーションツールとして進化させた好事例もあります。

今回ご紹介した4つの型は、普段からプランニングを仕事とされている方には当たり前すぎるものかもしれません。しかし普段は無意識に行っている方法でも、改めてその思考プロセスを整理・可視化してみることで発見できることもあると思います。ご自身の過去の企画や発想法を捉え直すきっかけになれば幸いです。

次回は実際の商品を取り上げてみて、これらの型を使ってプランニングをしてみる【実践編】をお送りしたいと思います。