あしぃ

太陽の少女


昔々ある小さな村に、美しい金色の髪の女の子が居ました。

その子は太陽の様で、大きな三つ編みのよく似合う、村では人気の子供でした。

その女の子には秘密がありました。

それは村の外れの小さな泉のある森…

そこには、水に溶けてしまいそうな程美しい妖精の少年が居るのです。

彼女は彼をとても気に入り、友達になりたいと願いました。

―しかしその妖精は、心に深い傷を負っていました。

彼女の願いは当然断られました。

でも村の太陽の彼女はめげません。

彼に嫌がられようと逃げられようと、毎日泉の森へ通ったのです。


「妖精さん!」

「…また君か…もう来ないでって言ってるだろ。」

「いやよ!妖精さんがお友達になってくれるって言うまで来るんだから!」


妖精の少年は深く溜息を吐き、身を預けていた木からふわりと下りた。

そして真っ直ぐ彼女を見て言った。


「僕は人間が嫌いだ。」

「知ってるわ。」

「放って置いてよ。」

「なぜ?貴方はこんなにきれいなのに。」


少年は顔を顰めた。


「だから?この場所を大人に知らせて僕を捕まえるつもりかい?」

「どうしてそんな事いうの!?私はあなたと…」

「もう沢山だよ!!!聞き飽きたよ!!!絶対に、もう此処に来るな!!!」


そう叫び、姿を消してしまった。

女の子は流石に落ち込み、村へ戻っていきました。

…しかし、戻った村は異様な空気。

彼女が恐る恐る人込みを掻き分けていくと、

そこにはいかにも傲慢そうな太った男。

女の子が呆然と見ていると、男と目が合った。

男は品のない笑顔を作り彼女に歩み寄った。


「おー!おー!これはこれは、なーんて可愛らしいお嬢ちゃんだぁ!こんな田舎に置いとくなんて勿体無ぁい!どうだい?お嬢ちゃん、わしに買われんか?」


男の突然の言葉に、彼女は付いて行けず唖然としていた。

すると男が豪快に笑い出した。

しばらく大声で笑うと、かがんで女の子と目線を合わせると。


「そーか、そうだったなあ!すまんかったなぁ!お嬢ちゃん、わしはこの村よりもずっとずーーーっと金持ちの街からやって来たんだあ!その街はわしが作ったんだよぉ!すごいだろう?わしはえらぁいおじさんなんだよぉ!」

「…えらい…?」


女の子が首を傾げると、男は自分の事を大袈裟に自慢をしだした。

それは誰もが不快に思った。

自分に付いて来れば嫌な家の手伝いや畑の仕事などは一切しなくていいと、

楽が出来るよと彼なりの甘い囁きなのだろう。

しかし、男の『楽』の言葉。それは、彼女には全く魅力のない言葉だった。


「おじさん。」

「んん?おじさんと来るかい?」

「ううん。行かないわ。」


その一言で、男は目を見開いた。

訳が分からない様で、何故かと彼女に問う。

自分に付いて来れば欲しい物は何でも手に入る、好きな事が出来る、お金があれば幸せだよと。


「私、お家の仕事が嫌だなんて思った事はないわ。だってするのが普通でしょ?それに、私はお金がなくても幸せよ。おじさんはどうしてしまったの?」

「………………!!!」


絶句する男と、彼女の言葉に賛同する村人。

男に『ここはお前の来るところじゃない』と。

すると男は手の平ポンと叩き言った。


「おお、そうだそうだ!はっはっは!わしとした事が、本当の目的を忘れるところだったわい!」

「本当の目的じゃと…?」

「一体この村に何の用で来たんだ!」


男を警戒する村人に、村人を虫けら同様にしか思ってはいない男。

彼らにゴミを見るような視線を送り、ニヤリと口角を吊り上げた。


「そりゃあお前さん、この村の近くの森に、青い妖精が居ると小耳に挟んだもんでなぁ?居ても経っても居られなかったんだよぉ」

「…!」



『この場所を大人に知らせて僕を捕まえるつもりかい?』



―彼はこの人の事を知っていたんだ。


「ねぇ、お譲ちゃん?妖精さんが居る森に、案内してくれるかなぁ?」


その言葉で彼女は理解した。



―自分が 彼への道標となってしまっていた事に。



【思い知る、彼の正しさ。】

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